- ARTICLES
- 「日常にアートがあること、救われたこと」 / me and youがアートを観たら、そのつぎは?
INTERVIEW
2022.11.04
「日常にアートがあること、救われたこと」 / me and youがアートを観たら、そのつぎは?
Photo / Shion Sawada
Edit / Eisuke Onda
アートを観た。作品に心を奪われた。じゃあ、その次は......どうしよう。 なかなか一歩踏み出せないかもしれないけど、勇気をふり絞ってギャラリーにいるアーティストに声をかけても良い。その絵が自分にとって掛け替えのないものだと感じるのであれば、購入し共に暮らしてみるのも良いかも。
そんな悩める人たちへ、アートをコレクションする先輩たちからのアドバイスを求めた。アートを好きになったきっかけは? どんなアートを購入した? 誰がおすすめ? なぜ買うの? どこに飾る? どうやって飾ってる?
第四回目に登場するのは"個人と個人の対話を出発点に、遠くの誰かにまで想像や語りを広げていくための活動をおこなう拠点”のme and youを主宰する編集者の竹中万季さん(写真左)と野村由芽さん(写真右)。ARToVILLAの立ち上げから関わるお二人にアートを観ること、生活の中に取り入れることの魅力について、5W1Hを尋ねてみた。
WHEN
アートを好きになったきっかけは?
「アートの存在が今の自分をかたち作っています」(竹中)
竹中:祖母が西洋の近代美術が好きで、小さい頃から美術に触れる機会があり、美術館もよく連れて行ってもらいました。その頃の記憶がずっと続いていて、旅先でもその街の美術館があれば立ち寄るなど、アートはずっと身近に感じていました。自分の中で転機が起きたのは、高校生のときに横浜美術館で見たマルセル・デュシャンとダダイズムのアーティストの展覧会。それまでは「美しいもの」を楽しむことが美術鑑賞だと思っていましたが、この展示を見て、その枠に囚われずに問いを投げかける表現方法に衝撃を受けたんです。何をもって美しさやアートは存在するのかということに関心を持った出来事でした。そのような経験があったことから、大学でも美学・美術史学を専攻していたのですが、卒業後は美術系の仕事に進んだわけではなくて。でも、アートを通して、これまで感じたことや、学んできたことが自身の今の人生に繋がっているなと思います。
「日常生活にアートがあることで救われてきました」(野村)
野村:私も万季ちゃんと同じで、祖母に影響を受けてきました。もともと踊りや手芸など、なにかを表現することが好きな人で、編み物をしているときも「パウル・クレー風に編んでみた」と、アート作品からデザインのインスピレーションをもらっていましたね。祖母が若かった頃は、戦争があって行動に制限があったぶん、「自分が好きなものや美しいと思うものが、どこにあるかを知っていれば、その場に行けなくても心のなかでいつでも会いに行ける」と、話していたことがあって。祖母の手から生み出されるものには、表現者としてのエネルギーをいつも感じていました。もう一つは、就活生時代にワタリウム美術館でたまたま観た展示、島袋道浩さんの「美術の星の人へ」です。その時は就職活動に疲弊してしまっている時期だったんですが、ジャガイモが水槽に浮かんでいる作品を観て、「なにが正解だなんてない、これでいいんだ」と、思ったんです。それまでは島袋さんを存じ上げなかったのですが、島袋さんが表現する世界の捉え方や、他者とのコミュニケーションのかたちに刺激を受けて、これまでとは違う方向性を模索したり、考えたりしていこうと、自分の中の知覚が崩された瞬間でもありました。これらが記憶に残っている私のアート体験です。
WHAT
どんなアートを購入している?
「シンパシーを感じた安藤晶子さんの作品」(野村)
野村さんがLEESAYAで購入した安藤晶子の作品
野村:去年独立をするタイミングで購入したのが、安藤晶子さんの絵。作品を一目見て感じる祝祭感や、切り貼りされた手作業の温もりを感じるところに心を奪われました。安藤さんがつくる作品は、さまざまな色が混ざり合っていたり、卵の殻などの細かいピースが用いられていたり。コラージュやステンドグラスのように、小さいものがギュッと詰まってできています。これまで私たちが取り組んできた「She is」や現在の「me and you」が大切にしてきた、さまざまな人たちの声を聞くことと、作品の手法がリンクしているような気がして、引き込まれた一枚です。ただ明るいだけではなく、どこか複雑な部分を感じるところも好きですね。
「大学時代に研究した思い入れのある作家のアートブック」(竹中)
竹中さんの私物のジョゼフ・コーネルのアートブック『箱宇宙を讃えて』。撮影:竹中万季
竹中:大学時代に、手作りの木の箱のなかにコラージュで自分の記憶や憧れが詰まった世界をつくるアメリカの美術作家・ジョゼフ・コーネルを研究していました。当時は彼に関する日本語の本があまりなく、初めて洋書を翻訳しながら卒論を書いた思い出深いアーティストの一人です。ちょうど卒論を書き終えたタイミングで、ジョゼフ・コーネルと詩人の高橋睦郎さんの展示が川村記念美術館で開催していたのですが、なんだか縁を感じて、その展示を記念したアートブック『箱宇宙を讃えて』を購入しました。フランス綴じで、テキストは活版印刷というとても美しい装丁なんです。本なのでアート作品とは言えないかもしれませんが、「アートを買う」経験としては思い出深い作品の一つです。
WHO
誰の作品がおすすめ?
「重力の中に存在する家族のかたち」(竹中)
こちらも竹中さんのお気に入りのアートブック、Guy Bolongaro『Gravity Begins at Home』。撮影:竹中万季
竹中:最近気になっているのは、Guy Bolongaro(ガイ・ボロンガロ)というフォトグラファーです。最近『Gravity Begins at Home』という家族をテーマにした作品集が出て、前から彼のことが好きだったパートナーがすぐに買って家にあるのですが、本当にかっこよくて。撮られているのは家族の日常の光景なのですが、タイトルにあるように独自の重力が存在しているような不思議な写真なんです。その表現を通して、当たり前とされている「家族」のあり方への投げかけや、作家の考える愛のかたちが伝わってくるようで、いつかリビングに彼の作品を飾れたらいいなと思います。
「現実と非現実の世界線を味わうことで見えてくるもの」(野村)
野村:たしか、万季ちゃんも好きだと思うけど、韓国のKanghee Kimっていうアーティストは素敵だなと思います。
竹中:私も好きです。いいですよね。
野村:PhotoShopを使ってコラージュアートを作っている方なんですが、現実と非現実が混ざり合ったような世界観で、作品を見ているとリアルとの境目が揺らぎ、夢の世界へと扉が開かれるようです。アートは、日常に想像したり跳躍したりする余白みたいなものを作ってくれると思うんです。この作品を眺めていると「本当にここにこれがあったら面白いな」と、つい思ってしまう。いつ見ても異なる風景に出会うような感覚を味わえるんです。
WHERE
どこでアーティストの情報を調べる?
「ふらっとギャラリーに入ります」(竹中)
竹中:Instagramから知ることも多いですが、仕事や私用で訪れた街では、近くにギャラリーがあれば立ち寄るようにしています。とくに下調べもせずに、展示から作家や作品のことを知るのが楽しくて。偶然の出会いほど自分の琴線に触れるものが多い気がします。
「改めて専門誌を読むことで知る新たな発見」(野村)
野村:最近は、専門誌の面白さを感じています。私自身はアートにすごく詳しいわけではありませんが、ここ数年、積み重ねられた歴史や研究の必要性を改めて感じています。専門誌はきちんと文脈を辿りながらアートを紐解いてくれるので、文化的・社会的な背景を知る楽しさがありますよね。パッと見て好きだと思う直感と、専門的な知識をどちらも行き来しながら、これからも作家や作品のことを知っていきたいですね。
WHY
なぜアートを購入するのか?
「なにかを感じ続けていくためにアートは存在する」(野村)
お二人が普段部屋に飾っている作品を持ってきてもらった。野村さんの作品は上述の安藤晶子《サイレントハミング》。竹中さんが持つのはアンジェラ・ディーンのゴーストシリーズ
野村:日常生活を送っていると、どうしてもこぼれ落ちてしまいそうなことや、見逃してしまう瞬間ってありますよね。心を揺さぶられたり、想像をしたりすることによって、今いるところから少し距離をとって考えることは、この世界で生きていくうえで必要なことだと思うんです。アートがあると、時間軸や場所をも超えて、自分自身に問いかけてきてくれます。なにかを感じ、考え続けていくことを忘れないためにも、アートという存在を自身の近くに置いているのかもしれません。
「一緒に過ごすことでわかる新たな発見」(竹中)
アンジェラ・ディーンのゴーストシリーズ
竹中:美術館やギャラリーで観るのもいいのですが、自宅に飾ってあると、朝起きてから夜寝るまで、作品に触れられます。嬉しいときや悲しいときなど、自分がさまざまな感情にあるときに観ることができるので、日々発見があるのが面白いですね。そして、由芽さんも話していたように、アートが身近にあることで、つい忘れてしまいそうなことに気付かされたり、考えさせられたり。日常生活を送っていくうえで、なくてはならない存在だと感じています。また、心ばかりではありますが、作品を購入することで、好きな作家さんへの応援になっていたらいいなと思います。
HOW
どうやって絵を飾る?
「好きなものに触れて仕事をする」(野村)
野村さんのご自宅の作業スペースの横に、ドライフラワーなどに囲まれて安藤晶子の作品が飾られている。撮影:野村由芽
野村:家で仕事をすることもあり、作業スペースを囲むようにして、机や棚の上に置いています。ふとしたときに、絵と向き合うことで、「これを大切にしたい」と思って購入したときの自分の状況や感覚に立ち戻る感じがあって、時間差の鏡のような存在です。仕事中、自分の好きなものに触れることで、穏やかな気持ちをキープできますよね。
「一緒に過ごすことでわかる新たな発見」(竹中)
竹中さんのご自宅の作業スペースには、田中尚子の刺繍作品とアンジェラ・ディーンのゴーストシリーズが並ぶ。撮影:竹中万季
竹中:昔から部屋の壁には、雑誌の切り抜きやポストカードなど、自分の好きなものを貼るのが好きな子でした。部屋に帰ってくるたび、それらのものたちに支えられているような気がして。大人になってからもそれは続いていて、いつか壁を埋め尽くすほどの作品を飾りたいと思っています(笑)。いまデスクの前に飾っているのは、大好きなアンジェラ・ディーンのゴーストシリーズや、友人でもある田中尚子さんの刺繍作品。仕事中に見ては作品たちにエネルギーをもらっています。まだまだ壁は空いているので、いろんな作品を飾って楽しんでいきたいですね。
infomation
ARToVILLA MARKET
ARToVILLA主催、現代アートのエキジビション兼実験店舗「ARToVILLA MARKET」を開催いたします。
me and youのお二人が推薦するアーティストも出展予定です。
■会期
2022年11月11日(金)〜11月13日(日)
■会場
FabCafe Tokyo, Loftwork COOOP10
〒150-0043
東京都渋谷区道玄坂1丁目22−7道玄坂ピア1F&10F
神泉駅から徒歩5分、渋谷駅から徒歩10分
Google map
■入場料
無料
DOORS
me and you
me and youは、個人と個人の対話を出発点に、遠くの誰かにまで想像や語りを広げていくための活動を行う拠点です。2022年2月、「わたし」と「あなた」という小さな主語を大切にしながら、小さな違和感も幸福もなかったことにせず、個人的な想いや感情を尊重し、社会の構造まで考えていくコミュニティメディア「me and you little magazine&club」がスタート。性にまつわることを自分の温度で話しはじめてみる音声番組「わたしたちのスリープオーバー」をSPINEARおよびJ-WAVEで毎週金曜日に配信中。 https://meandyou.co.jp/ https://meandyou.net/ https://spinear.com/shows/our-sleepover/
volume 04
アートを観たら、そのつぎは
アートを観るのが好き。
気になる作家がいる。
画集を眺めていると心が落ち着く。
どうしてアートが好きですか?
どんなふうに楽しんでいますか?
観る、きく、触れる、感じる、考える。
紹介する、つくる、買う、一緒に暮らす。
アートの楽しみ方は、人の数だけ豊かに存在しています。
だからこそ、アートが好きな一人ひとりに
「アートとの出会い」や「どんなふうに楽しんでいるのか」を
あらためて聞いてみたいと思います。
誰かにとってのアートの楽しみ方が、他の誰かに手渡される。
アートを楽しむための選択肢が、もっと広く、深く、身近になる。
そんなことを願いながら、アートを観るのが好きなあなたと一緒に
その先の楽しみ方を見つけるための特集です。
新着記事 New articles
-
INTERVIEW
2024.11.20
日常にアートを届けるために、CADANが考えていること / 山本裕子(ANOMALY)×大柄聡子(Satoko Oe Contemporary)×山本豊津(東京画廊+BTAP)
-
SERIES
2024.11.20
東京都庁にある関根伸夫のパブリックアートで「もの派」の見方を学べる / 連載「街中アート探訪記」Vol.34
-
SERIES
2024.11.13
北欧、暮らしの道具店・佐藤友子の、アートを通じて「自分の暮らしを編集」する楽しさ / 連載「わたしが手にしたはじめてのアート」Vol.29
-
NEWS
2024.11.07
アートと音楽で名古屋・栄を彩る週末 / 公園とまちの新しい可能性を発明するイベント「PARK?」が開催
-
INTERVIEW
2024.11.06
若手アーティストのための場所をつくりたい━━学生スタートアップ「artkake」の挑戦
-
SERIES
2024.11.06
毛利悠子の大規模展覧会から、アートブックの祭典まで / 編集部が今月、これに行きたい アート備忘録 2024年11月編