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- 作品を通して刺激し合う、アーティストとミュージシャンの対話 / 新道トモカ×FIVE NEW OLD・HIROSHI
INTERVIEW
2024.06.19
作品を通して刺激し合う、アーティストとミュージシャンの対話 / 新道トモカ×FIVE NEW OLD・HIROSHI
Text / Sho Kobayashi
Edit / Eisuke Onda
天と地の間にある地平線、うねるような動きをするダンサー。その姿は美しいランドスケープの一部のようにも見えてくる。アーティスト・新道トモカは新シリーズ「neutral」に、カテゴライズされないイメージを焼き付けたという。
この新作シリーズは7月に松坂屋名古屋店でも展開される。今回は新道さんの仲間であり作品を購入したこともあるという、ロックバンドFIVE NEW OLDのボーカルのHIROSHIさんに鑑賞してもらった。
その後の対談では、「neutral」の話を入り口に二人にとってのクリエイションの話や、作品を誰かに手渡すことや、生活の中でアートを楽しむ意義など、さまざまな話に展開していった。
新道トモカ《neutral「pile」》
Session
新道トモカ(写真左)
ダンスと写真をルーツにするアーティスト。写真とドローイングでコンテンポラリーアートを制作。常に作品は他者にアクションし、自らにも問いかける。そしてそのリアクションこそ最新のアートと考えている。
《neutral - search for-》 2024 210×297mm photo acrylic
HIROSHI(FIVE NEW OLD/写真右)
バンド「FIVE NEW OLD」のボーカル&ギター。R&B/BlackMusic/Gospel/AOR/Alternative Rockなどの要素を昇華させたワールドスタンダードなポップサウンドを展開。歌唱力・英語力が高く評価されている。
新道トモカ《neutral「search for」》
「どちらでもない」ことの救い
取材は東京・馬喰町のMIDORI.so BAKUROYOKOYAMAにて5月に開催された新道トモカ個展「neutral」の会場で行われた
──HIROSHIさんは新道さんの以前の展示にも行っていたんですよね。
HIROSHI:前回の展示(「Between」)にお邪魔しました。そのときにトモカさんから「いろいろな選択肢の中から何かを選ばなければいけない」という作品のテーマを聞いて、自分が音楽を作るときに感じることと共通する部分があるなと感じたのを覚えています。
グラデーションをメインテーマに写真転写によるシルクスクリーンを用いたシリーズ「Between」
《Between The Line》 2023 364×515mm screen print on wood panel
新道:そのときHIROSHIくんと個人的な悩みも含めていろいろ話した気がします。写真とダンスであったり、私生活と作家生活であったり、ふたつの枠が重なるところがなかなか見つからなくて「どちらかを選ばないといけないのかな」と悩んでいたんです。
HIROSHI:そのときに考えていた「選択肢の中のどれを選ぶか?」というところから、その(選択肢の)振り幅を全部受け止めて、どちらでもない「neutral」なところに行ったということに今回の展示でとても勇気をもらいました。それに、安心感がある。写真を観ていてもそうだし、展示の雰囲気全体も居心地がいい感じがする。
《liberation- 解放》 2024 600×900mm acrylic paint・UV print on canvas
《neutral - nil -》 2024 210×297mm photo acrylic
──新道さんはこの3年間「表裏一体」「Between」「neutral」という一連の展示シリーズに取り組んできました。当初、ランドスケープ(風景写真)に挑戦するところからはじまった創作ですが、今回観た「neutral」では数多くのダンサーが作品に登場していますね。
新道:自分自身、ダンサーのアーティスト写真からキャリアをはじめたわけで、原点回帰をした気もしますね。それにダンサーだった自分を掘り下げたとき、ダンスを外すことはどうしてもできない。心にも身体にも入りすぎているんです。ただ、「neutral」では無機質にダンサーを取り扱っているので、ポートレートではない意識ですね。「Between」から踏襲しているランドスケープの手法は用いつつ、ランドスケープにもポートレートにも「どちらにも属さない」というところを目指しました。そのカテゴライズできないイメージから、自分がどこに属しているのか迷う人が作品を観て「どっちでもない」があるんだと楽になってもらえたりしたらとてもうれしい。
──FIVE NEW OLDの音楽も数々のロッククラシックやR&B、ジャズなどのサウンドがミックスされている一方で、現在性のあるポップスでもありますよね。それはいわば「どちらにも属さない」ということとも近いんでしょうか?
HIROSHI:若いころはカテゴライズして枠にはめられることへの反発でいろいろなジャンルを混ぜてもいました。売り物としてはわかりやすいほうがいいんですけどね(笑)。でも、結局それはできなかったんですよ。狙いが定まっていることももちろんあるけど、バンド4人で作っていくので、それぞれ重なる部分も違っている部分もあるから。だけど、今は枠があるということの安心感はやっぱりあると思っています。だからむしろ「どっちでもある」という感じです。
新道:たしかにそういう感覚もあるかもしれない。
HIROSHI:実は最近カメラをはじめたんだけど。
新道:インスタ見てるよ。
HIROSHI:ありがとう。語弊があるかもしれないけど、写真ってカメラを持っている人が地続きの瞬間のどこかを切り取って枠にはめる行為だと思う。「neutral」を観ていると、正しい瞬間と適した場所を切り取ることができれば、それだけでそのときアーティストが感じていた心の動きやワクワクを伝えることができるんじゃないかって思う。だから、たどり着いているところは一緒だなって。
新道:たしかにそうだね。今回ビジュアル化したのはあくまでも私だけど、誰にとっても当てはまるコンセプトだと思う。
作品を手放す感覚について
──HIROSHIさんが実際に購入した新道さんの作品があると聞きました。
HIROSHI:Betweenのときにアクリルパネルを2つ買いました。一枚の写真、ひとつ風景の中に様々な光の波長が色として折り重なって、僕たちの目に写っていることをこの作品が教えてくれました。また同時に自分たちはそのことを理解せずとも身体で感じているんだということもこの作品を見ていると気づいたんです。だからその発見を留めていたくて、作品を購入させて頂きました。
新道:マゼンダとブラック、シアンとイエローという2色の組み合わせで刷っているので重ねるとひとつのビジュアルになります。HIROSHIくんは原画と緑の組み合わせだったよね。
HIROSHIさんが実際に購入した作品。撮影:HIROSHI
HIROSHI:制作用の部屋に南向きの窓があって、そこに立てかけて飾ってる。その日の気分に合わせて、置き方を変えてみたり、側面から眺めたりと見方を変えるのが楽しくて。最近うちに猫が来ていつもひやひやしてるんですが、これにはいたずらしてはだめだと感じてくれているみたい。
新道:キャッツにもなんか異物感が伝わってるんだ。ありがたい(笑)。
──自分の作品が誰かの手元に渡っていったときのことで印象的なエピソードはありますか。
新道:出産の病院が同じだった方が作品を買ってくれたんです。話を聞くと、その方の実家に両親が買った絵がずっとあったそうで、その絵を観ると落ち着くらしくて。私の展示に来てくれたとき、「自分の家族みんなで眺める作品としてこれが欲しいと思えたんだ」って言ってくれたんです。私の作品を、自分の家族に合った作品として、まるで「私たちの作品」のように扱ってもらえてとてもうれしい経験でした。
HIROSHI:自分が生み出したものが、誰かの所有物になるって不思議な感覚があるよね。もちろん生業として創作をする上では「誰かの手に渡ること」は前提なんだけど。それでも、人となにかを分かち合うということは、やっぱりうれしい。曲作りもまずメンバーにわかってほしいというところからはじまるし。
新道:作品は生み出されたあとは私の手から離れていくもの。作品自体が展示に来てくれた方と会話をして、その人の行きたいところへ一緒に羽ばたいていく感覚です。その先で、私の手元では出会えない人たちに、きっとこれから出会っていくんだろうと。アートにはそういう力があると思います。この展示は名古屋への巡回が決まりましたが、「neutral」の作品たちに連れて行ってもらっていて、あくまで私は保護者みたいな気でいます(笑)。
HIROSHI:作者が作品に見出していた意味もそうなんだけど、トモカさんが言うとおり、受け取った誰かが新しい意味や思いを乗せていって、作り手と受け手の間で積み重なっていくというのがアートの一番魅力的なことかもしれない。
──さまざまな鑑賞者との対話が繰り返されることで意味が広がっていくというのもアート作品の持つ力だと。
HIROSHI:昨日ライブがあったんです。会場のライブハウスのバックヤードにいたら忘れ物のビニール傘が大量にあって、テープでひとまとまりにされていたんですね。それが行き場をなくして抱き合ってるみたいに見えてしんみりしたんですよ。関係ある話かわからないですけど。
新道:なんか泣ける話だね。
HIROSHI:アートというのは音楽に限らず、ただの大量の傘に別の視点や新しい意味を見出すためのものなんですよね。
アートと向き合うためのヒント
──お二人の話を聞いていて、鑑賞者とアートが対話することの先に「所有する」という選択肢もあるんだなと感じました。
HIROSHI:そこにもっと目が向いていってほしいなって思うんです。アート作品はもちろん安くないけど、勇気を振り絞って作品を買うということが自分の人生にメリハリをつくってくれるんじゃないかと思う。ただ、今僕たちが話していることって生活に一手間かける行為でもある。心にそういう余白を大事に持ち続けるというのは、日常生活に追われるなかではとても大変なことなんですよね。インスタントな情報で自分の考えをはっきりさせないと生活が保たないくらいみんな余裕がないと感じるし。それは自分だってそうで。
新道:そうだね。アートで救えるかもしれないって思う気持ちと、それを強要してはいけないって気持ちも両方あって。観てくれたとしてもアートと向き合う余力がない状態のときもあるわけで、特定のタイミングで絶対観てというのは多分無理なんです。でも私が作り続けていれば、その人が「今なら観れる」っていうタイミングがいつかある。今はそれが創作のモチベーションのひとつかもしれない。
──実際に創作を行うお二人から、ふとした瞬間にアートに向き合えるようなヒントがあれば最後に伺いたいです。
HIROSHI:茨木のり子さんの『詩のこころを読む』(岩波ジュニア新書)という子供向けに詩を紹介している本にすごく勇気づけられたことがあるんです。自分と向き合って深く掘り進めた先にある大きな水脈は他の人ともつながっている、だからそこまでたどりついた言葉なら他の人の心も動かせる、といった内容で。アート作品も個人的なことから出発するものって多いんですよね。
新道:自分が創作するときもそうかもしれない。家族のことや恋愛のことのように私的なことが大きなテーマになって作品が生まれるということは世界中のアーティストで起こっていること。それがアートを通して客観的で広い視点を持つものになるんだと思います。
新道トモカ《Between The Line》
新道トモカ Information
新道トモカ 個展「neutral」
■会期
7月10日(水)~7月16日(火)
■場所
松坂屋名古屋店 北館1階 GENTA the STAGE
■主催
ARToVILLA
■企画
SATOSHI NAGAI
展覧会詳細はこちら
新道トモカ《libertation 解放》
HIROSHI Information
FIVE NEW OLD
ONE MAN SHOW「finocrewsing」
日時:7月7日(日)
会場:Zepp Shinjuku(東京)
チケット他詳細はこちら
ARTIST
新道トモカ
アーティスト(現代アート、写真表現と身体表現)
日本大学芸術学部 写真学科卒。幼少期にJazzを通じてダンスに出会う。学生時代は20歳からキッズにダンスを教え始め、ダンサーのアーティスト写真を撮り始める。卒業後は雑誌や広告撮影をしながらダンス、写真、声を表現手段とし個展や舞台にて作品を発表している。近年は写真とドローイングでコンテンポラリーアートを制作。常に作品は他者にアクションし、自らにも問いかける。そしてそのリアクションこそ最新のアートと考えている。
GUEST
HIROSHI (FIVE NEW OLD)
ミュージシャン
2010年神戸にて結成したバンド「FIVE NEW OLD」のボーカル&ギター。「ONE MORE DRIP」(”日常にアロマオイルの様な彩りを”)をバンドコンセプトに、R&B/BlackMusic/Gospel/AOR/Alternative Rockなどの要素を昇華させたワールドスタンダードなポップサウンドを展開。歌唱力・英語力が高く評価されており、精度の高いサウンドメイクが幅広い層から支持を得ている。
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