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2024.09.11

「ジャポニスムが一番好き」パリジェンヌ・クララ ブランが“周りを気にしがち”な日本人に発信したいこと / 連載「わたしが手にしたはじめてのアート」Vol.27

Interview&Text / Yukimi Negishi
Photo / Daisuke Murakami
Edit / Miki Osanai & Quishin

自分らしい生き方を見いだし日々を楽しむ人は、どのようにアートと出会い、暮らしに取り入れているのでしょうか? 連載シリーズ「わたしが手にしたはじめてのアート」では、自分らしいライフスタイルを持つ方に、はじめて手に入れたアート作品やお気に入りのアートをご紹介いただきます。

お話を聞いたのは、モデルやインフルエンサーとして活躍する日本在住のパリジェンヌ・クララ ブランさん。美濃焼と西洋の文化を融合させたジュエリーブランド「ATELIER ROUGE(アトリエルージュ)」のプロデューサーでもあるクララさんのご自宅には、パリや京都で手に入れた日本美術が飾られています。

日本の人々に向けて日々発信する想いを聞いていくと、「異なる文化圏の価値観を発信することで、つい周りの目を気にしがちな日本の人たちが少しでもラクになるようなきっかけをつくりたい」とクララさん。アートはその手助けをしてくれるもの、とも考えているようです。

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越智康貴 / 連載「わたしが手にしたはじめてのアート」Vol.26はこちら!

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「花やアートを暮らしに取り入れていくと、『感じが違う』自分に変わっていく」フローリスト・越智康貴 / 連載「わたしが手にしたはじめてのアート」Vol.26

  • #越智康貴 #連載

# はじめて手にしたアート
「日本の文化の中でも、特に大好きな源氏物語が描かれているものを選びました」

はじめて手にしたアートと聞かれて思い浮かべたのは、源氏物語絵巻のアートポスターです。

日本の文化の中でも特に源氏物語が大好きで、3年ほど前に京都の宇治にある源氏物語ミュージアムに行ったときに出会いました。出会った瞬間にもう「買うしかない!」という気持ちになって、そのまま購入したんです。

購入した当時はシェアハウスに住んでいたのですが、絵が大きすぎて飾ることができなかったんです。だから、飾り始めたのは今の家に引っ越してから。

広い部屋に移るために、仕事やSNS発信にも力を入れ始めました。無事引っ越した新居に大好きな絵を飾ってからは、本当に日々の幸福度が高まりましたね。

私のワークスタイルは、平日は広告代理店の仕事をしていて週2でリモートワーク、週末にSNS発信の活動やATELIER ROUGEのブランドディレクター業を行うというスタイル。だから、1週間の中で自宅で過ごす時間が多いんです。たくさん幸せを感じて過ごせるように、家の中は好きなものに囲まれる環境に整えています。

 

# アートに興味をもったきっかけ
「フランスにいた頃はパリのルーヴル美術館の近くで暮らしていたので、アートは物心ついたときから身近な存在でした」

フランスにいた頃はパリのルーヴル美術館の近くで暮らしていました。子どもの頃からよく家族で足を運び、自分で絵を描いてみるプログラムに参加したり、ボタンやパールを組み合わせてものづくり体験をしてみたり。アートは物心ついたときから身近な存在でしたね。

学校でのアートの授業も印象に残っています。ヨーロッパの歴史の流れを辿りながらアートを学んでいくという授業スタイルだったのですが、ナポレオン1世の首席画家だったルイ・ダヴィッド作の油画などから「歴史の一部を伺い知ることができるおもしろさ」を感じていました。

日本に興味を持ったのは13歳のとき。パリで開かれたYohji Yamamotoさんのファッションショーに衝撃を受け、その独特な世界観に惹かれたことがきっかけです。そこから本屋さんの「日本コーナー」にある本を買って読んだり、日本展が開催されたら必ず足を運んだり。とにかくたくさん日本について調べました。

日本美術に出会ったのも同じくらいの時期だったと思います。馴染みのあるヨーロッパのアートとは、まったく違う美しさに引き込まれました。

それまで自分がルーヴル美術館で観てきた絵は、ほとんどが人間に焦点が当てられている一方、浮世絵は対象を完璧に写そうとせず自然や景色に目線が向くように描かれている。その違いを知ったとき、浮世絵をとても美しいと感じたんですよね。

パリに住んでいた頃も部屋にはたくさんの浮世絵を飾っていました。喜多川歌麿の『寛政三美人』を大きくプリントして切って貼ったり、日本の提灯をあちこちに飾ったり。幼少期からたくさんのヨーロッパのアートに触れ、いろんな国を訪れてきましたが、日本ほど独自の文化が守られていて、外の人が刺激的に感じられる国は珍しいと思っています。

 

# 思い入れの強いアート
「一番好きなのは、日本の工芸品や浮世絵からインスピレーションを受けているジャポニスムです」

私が購入したアートは、ほとんどが一目惚れで手にしたものです。

いつもダイニング横に床置きしている2点の作品は、パリのアンティークマーケットで見つけたものなんです。出会った瞬間に作品に呼ばれている気がして購入を決めました。

パリのアンティークマーケットで購入した2点。「右の作品は、ATELIER ROUGEっぽいなと思いました」とクララさん

1919年刊行の雑誌『VOGUE』の表紙もお気に入り。Condé Nastのウェブサイトで見つけたとき、「ジャポニスム」を感じて購入しました。ジャポニスムとは、日本の工芸品や浮世絵からインスピレーションを受けた作風のことです。

日本人作家の友人もいて、彼らの作品も自宅でよく眺めています。イタリア在住のYUKA NISHIさんは大好きな友だちで、彼女の油絵からいつもパワーをもらっています。彫刻師のEri Maedaさんが私の体をモチーフにつくってくれたオブジェも、お気に入りのひとつ。彼女の作品には「どんな体もアートであり、美しい」というメッセージが込められていて、素敵だなと感じます。

YUKA NISHIさんの作品(左)、1919年に刊行されたVOGUEの表紙(中央)、源氏物語ミュージアムで購入した源氏物語のアートポスター(右)

YUKA NISHIさんの作品は窓際にも飾られている

Eri Maedaさん作の彫刻。「いつも道が見つかりますように」と書かれているという

日本独自のものの見方に惹かれる一方、日本とフランスは美意識の根本的な部分が似ているようにも感じます。

たとえば、侘び寂びの「侘び」は質素なものにこそ趣があるという考えで、フランスのミニマリストな考え方と似ています。ほかにも、職人さんが見えない部分までこだわり抜く姿勢や、そういった手仕事を生活者がリスペクトする気持ちなども共通している。

そういった理由もあり、アートで一番好きなジャンルはジャポニスムです。その次が、神秘的で目に見えないものを描くサンボリスム、その次がピカソなどに代表されるキュビスムですね。

「いつも活動を応援してくれている方々からもらった」というやきもの

 

# アートのもたらす価値
「アートは、『みんなが違う目線で世界を見ていること』に気づかせてくれるきっかけになるもの」

アートを含めどんな文化も、実際に自分が深く入り込んでみなければ本当の姿って見えてこないものだと思っています。

私自身の経験で言うと、日本に来たばかりの頃はコンビニの接客で店員さんがいやな顔をしているのを見たことがなかったので、「日本人って文句とか言うのかな?」と思っていました。でもシェアハウスに住み始めて、一緒に住む日本の子たちが就職や恋愛などに悩んで泣いている姿を見て、日本人だってこんなふうにいろいろ悩んで、それを口にしたりするんだと知ることができたんです。

そうやって日本への理解を深めていくうちに、日本の人たちは、我慢しすぎ、頑張りすぎ、周りに合わせて個性を出せないことで悩むことが多いという一面があることもわかっていきました。

私がフランスをはじめ異なる文化圏のライフスタイルや考え方を発信しているのは、大好きな日本の人たちに、「当たり前だと思っている価値観や、周りの価値観に縛られすぎなくていいんだ」と少しラクな気持ちになってもらいたいからなんです。異なる価値観を自分の中に増やしていくことが、不要な我慢や無理をしない「エフォートレスな生き方」につながると思っていますし、私自身もそういう生き方を大切にしています。

一方で、日本人のまわりをよく見て「気配り」ができるところは、とても素敵な部分であると感じています。私自身、そういった方々と一緒に過ごす中で人間として成長したと感じるんです。だからこそフランスの方々には、日本の素晴らしいこととしてそれらを伝えたいですね。

アートは異なる価値観を取り入れるいいきっかけになるものだと思っています。

例えば喧嘩したときって「この人はなんでこういう考え方なんだろう」のように自分の思考だけに囚われてしまいがちだけど、アートは現実には存在しない色やちょっと違和感を覚えるような対象の捉え方で描かれていたりするから、向かい合ったときに「みんなそれぞれ違う世界を見ているんだ」と認識しやすい。

そういった気づきによって、今まで自分を苦しめていた「当たり前」に苦しむ必要がなくなるかもしれないですよね。

 

# アートと近づくために
「好きなものの背景を深ぼっていくと、アートがもっとおもしろくなるかも」

アートをおもしろがっていくためには、いつ・誰が・どんな理由で描いたのかなど、まずは作品の背景をいろんな角度から調べてみるのがいいと思っています。そうすることで初見では得られなかった気づきを得たり、意外なギャップを感じたりできるんです。

たとえば、私が好きな絵画のひとつにロココ様式を代表するジャン・オノレ・フラゴナールの『ぶらんこ』があります。一見かわいらしい絵ですが、「実は、愛人のために描かれていた」のような説も唱えられていて、そのギャップがおもしろい。

背景を理解したあとは、その作家のいた国の文化や言語を学んでみるとさらにハマっていくと思いますよ。そう言い切れるのは私自身が日本文学などを通じて日本語を学んだことで、もっと日本の魅力に気づけるようになったから。

日本の敬語表現や手土産などの気配り、相手が感じていることを想像する高いコミュニケーション能力など、言葉を理解できるようになってから日本文化のおもしろさにたくさん気づくことができました。

また、「ATELIER ROUGE」のジュエリーは、日本とフランスのアート・工芸から得たインスピレーションを元にデザインをしています。

たとえば、初作品の「金印」は、歌川広重の浮世絵を模写したゴッホの『Bridge in the Rain (after Hiroshige)』からインスピレーションを受けていて、「ゴッホが描き加えた『フレーム』は窓枠のようで、遠くの日本を恋しがっているみたい」という私の解釈を乗せてデザインしたものなんです。

一つひとつにそういった背景があるこのジュエリーたちも、アートを深掘りしたり、異なる価値観に触れたりするひとつの入り口になれたらうれしいですね。

耳元にATELIER ROUGEのピアス「金印」が光る

「ATELIER ROUGE」のジュエリー

 

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DOORS

クララ ブラン

モデル

パリで生まれ、現在は日本に在住。大学院卒業後、パリで「Louis Vuitton」に入社。日本での就職を決め、現在、広告代理店「monopo Tokyo」のアカウントディレクターを担当している。2021年にジュエリーブランド「ATELIER ROUGE」のプロデューサーとして、美濃焼と西洋の絵画を掛け合わせた商品を手がける。モデル・SNSでの発信など、幅広く活躍の場を広げ、世界に日本の文化やエフォートレス(=不要な我慢と無理をしない)な生き方を発信するため、活動中。

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