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INTERVIEW

2022.09.16

【後編】総勢50名のアーティストによるお祭り騒ぎが街の風景を変えた? / 証言「PROJECT ATAMI」

Text / Yosuke Tsuji(DOZiNE)
Photo / Shion Sawada
Edit / Eisuke Onda

熱海の街にアートを実装することで「一年中を通して熱海に花を咲かせたい」という様々な人々の気持ちからスタートした「PROJECT ATAMI」。

前編では誕生の話から、タイトなスケジュールでなおかつ天災にも見舞われた中で集まったアーティストたちの活動を振り返ってきた。

後編ではいよいよ、11月からスタートした大きなアートフェス「ATAMI ART GRANT」の話へ。記者会見でポロッと出てきた一言から波乱が起き、そして大きなカオスが起きていく.....。

当時の熱狂について話してくれたのは、前編から引き続き、総合ディレクターの伊藤悠、キュレーターとして関わっていたキュレーターの吉田山、参加アーティストの河野未彩。それから今年から熱海に関わる建築コレクティブGROUPを代表して井上岳にも参加してもらい、熱海のこれからについても語ってもらった。

*写真左から井上岳、吉田山、河野未彩、伊藤悠

INTERVIEW

前編はこちら!

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INTERVIEW

【前編】アーティストたちが主体的に参加した熱海の新しい祭りって?/証言「PROJECT ATAMI」

  • #伊藤悠・吉田山・河野未彩 #特集

毎日がバカ騒ぎのお祭り

 ただでさえ過密なスケジュール下で進められていた「ATAMI ART GRANT」の準備だったが、ここにきてさらなる追い打ちが入る。
 
「始めGRANTは30組の予定だったのですが、中野善壽さん(*1)がインタビューでいつのまにか50組っておっしゃっていたんです(笑)。それで急遽レジデンスメンバーにも参加してもらうことになって。だから、グラントの準備時は50組のアーティストが同時期にホテルに滞在することになり、すごいことになってましたね。カオスだった(笑)」(伊藤悠)

*1......元寺田倉庫の代表で現在はACAO SPA & RESORTの代表取締役会長・CEOも務める。実業家であり様々なアート事業に貢献、伊藤悠とは「PROJECT ATMI」以外にも鉄工島フェスなどを共同してきた。

 宿泊営業終了を発表し、静けさが漂っていたHOTEL ACAO ANNEXに、にわかに訪れた喧騒。当時、現場にいた河野未彩と吉田山も、伊藤の「カオス」という表現に大きく頷く。

「レジデンスの時は場合によっては自分一人しかホテルにいないような時もあって、あれもあれで面白かったんだけど、GRANTの時の熱気は本当にすごかったです。アーティストがいっぱい集まると色々起こるんですよね(笑)」(河野)

「僕はGRANTではコーディネート役として運営に関わってたんで、参加アーティストと熱海の各地に散らばった展示場所をパズルゲームみたいに当てはめていかなきゃいけなかったんです。それって結構、頭を使う作業なんですよね。でも毎晩みんなで飲んだり一緒に温泉入ったりして馬鹿騒ぎしてると、どんどんアホになってく(笑)。知性も理性も吹っ飛んで、ロジカルでは全くいられなかった。完全にお祭りですよね」(吉田山)

 ここで期せず、吉田山の口から本特集のキーワードである「祭り」という言葉が。伊藤もまた吉田山の言葉に同調した。

「髙木遊くん(*2)というお祭り人間がいたのも大きかったですよね。グラントは始まる当日まで私にも一体どうなっていくのかが分からなかったですから(笑)」(伊藤)

*2......第4タームのレジデンスにも参加したキュレーターで「ATAMI ART GRANT」内の企画「Standing Ovation | 四肢の向かう先」をACAO SPA&RESORTホテル内にて開催した人物。このイベントに関する解説は今回のインタビューを担当した辻陽介による美術手帖の記事に詳しく記載。

「そのテンションにつられて参加者全員がどんどん盛り上がっていきましたよね。一般的なお祭りにも神輿や山車とかのオブジェクトがあるじゃないですか。それ自体もすごく面白いんだけど、ただ主役はやっぱり人だと思うんですよ。人々の熱気が祭りのフレームを形作っていくというか。これまで芸術祭はいくつも見てきたけど、GRANTでは祭りのフレームが生まれていく過程を内側から経験できた気がしていますね。実際、僕も今は真剣に熱海を面白くしたいって思ってますし。いつの間にか巻き込まれちゃってたんですよね。それが祭りというものなんだと思う」(吉田山)

レジデンスアーティストが集まり夕食の支度をしている様子。撮影:竹久直樹

製作に参加した書道家の華雪がつくる豪華な手料理。撮影:河野未彩

 

来場者数が1日1000人超え!?

ATAMI ART GRANTの開催された「Standing Ovation | 四肢の向かう先」の入り口。撮影:竹久直樹

 かくして「祭り」特有の身を焦がすような熱気に包まれて始まった「ATAMI ART GRANT」だったが、当初、ここまで人が来ることになるだろうとは、誰も予想していなかった。

「スケジュールもタイトだったから、ほとんど宣伝できてなかったんですよ。だから、本当に人が来てくれるかな?って思ってたんです(笑)。実際、最初の方はそこまで来てなくて。でも、来てくれた人たちがSNSとかで情報を発信してくれて、それによって二週目、三週目くらいからどんどん人が増え始めて。気づけばホテル前に大行列ができるくらいになってて。本当にありがたかったですね」(伊藤)

「場所の力も大きかったですよね。あのタイミングでHOTEL ACAO ANNEXが宿泊営業の終了を発表して、そのニュースが流れたことで、建物内を見て回りたいって人たちもいっぱい来てくれた。あらためてみんながこの場所の面白さに注目してくれた。実はそれって一般の人だけじゃなく、ホテルのスタッフの人たちも同じだったんですよ。今回アーティストが入ったことでこの場所の魅力を関係者含めて再発信していったところがあったんです。アーティストたちの『この空間はやばいぞ』っていう感覚が一般の人やホテルの人たちにも伝播していったというか」(河野)

「ホテルの人も喜んでくれてたよね。このホテルをこれだけの人が見てくれることが嬉しいって。最後の方は一日1000人以上来てましたし。ただ、私たちもホテル側もこんなに人が来るとは思ってなかったから無料で開催しちゃったんですよね。だから盛り上がれば盛り上がるほど、ただただ大変になっていくという(笑)。スタッフが完全に足りてなくて、途中からシステムとかも色々と変えなきゃいけなかったし。でも、逆に2年目は期待されてるところもあって、それはそれでプレッシャーなんです。定期的に開催しているオープンレジデンスを有料化してみたり、今色々と実験しています」(伊藤)

サロン・ド・錦鱗では保良雄《Fruiting body》が展示。撮影:竹久直樹

使われなくなったプールに投影されたのは渡邊慎二郎《靡く植物》。撮影:竹久直樹

メインダイニング錦からは小松千倫《Endless Summer》が見える。撮影:竹久直樹

お客さんが入れないホテルの社食に展示された鈴木昭男さんの作品。撮影:吉田山

 

2022年も動き出したPROJECT ATAMI

 そう、すでにPROJECT ATAMIは二年目へと突入しているのだ。融通無碍なプロジェクトの性質が呼び寄せたさまざまな偶然も重なり、結果的に大盛況となったPROJECT ATAMIだったが、今後はそれを方法論化し、かつ、さらなる発展を目指していく必要も生まれてこよう。その一環として、今年度からはレジデンスアーティストの人選にも吉田山が関わっている。企図されているのは、狭義のアートにとらわれない人選。たとえば、今年度の第2ターム(*3)には、井上岳(写真上)、大村高広、 齋藤直紀、棗田久美子、赤塚健らによる建築家コレクティブGROUPが採用されている。

*3.......GROUPの他には竹久直樹、冨安由真、細野晃太朗、森山泰地が参加。

「もともと地域で行われているアートプロジェクトやレジデンスに基づくアートの作り方には興味があったんですけど、建築家がそういったプロジェクトに関われることってあまりないんです。建築をつくることと比べると予算感も違うし、スケジュール感も違う。ただ、建築家は場所の条件を受けてものをつくっていく仕事なんですよね。だから結構似たようなことをしているんじゃないかと。それで僕らもできることがあるんじゃないかと思って参加させてもらいました」(井上)

 GROUPを代表して井上はそう語る。アーティストレジデンスに異例ともいうべき建築家を採用した理由について吉田山に尋ねると、「熱海って複雑な街なんですよね。コンパクトなんだけど高低差がすごいある。マップを作っても、平面のマップでは距離感が掴めなかったりする。そうした熱海の複雑な地形を含めて、広めのレンジで空間を捉えられる人がいた方が面白いだろうと思ったんです」とのこと。実際にレジデンス期間を経てみて、井上の手応えのほどはどうだったのだろうか。

「建築の設計の場合はフォームやスケジュールがあらかじめ決まっていて、それはそうそう動かせるものではないんですけど、アートの場合、こんなにも柔軟に変えていくことができるんだっていうのが新鮮で面白かったですね。今までとは違う、いわゆる計画ベースとは違う形の建築、制作のあり方がありえるのかもしれない、と考えられるようになりました。僕らは基本的に図面を描くという形以外では手、身体を動かさないんですよね。でもアーティストの人たちはもっと身体的で、僕たちよりも柔軟に制作という行為を考えているんだなって思ったんです」(井上)

 レジデンスで得た“身体的”感触は、そのタームのオープンレジデンスで発表したGROUPの作品にも反映されていた。

「GROUPのみんなはホテルアカオの客室の一室をそのまま丸々ダイニングフロアに持ち込むっていう作品を発表したんですよね。縮尺もそのままで。部屋に置いてある石や、それこそ畳とかも全部外して、みんなでせっせと運んでね。めちゃくちゃ力仕事だったと思う(笑)」(伊藤)

「現場での作品制作は齋藤直紀、大村高広、 協力として青木廉さんが行ってくれたのですが、SNSで連絡が来るたびに大変さが伝わってきました」(井上)

GROUPがつくった作品ではホテルの客室にあった空間をメインダイニングに移動した。撮影:竹久直樹

移動したあとの客室の様子。撮影:竹久直樹

 

50組のアーティストが変えた景色

 なんでもGROUPもまた、レジデンス期間を超えて熱海の街に通い続けているらしい。

「僕たちは今年11月のGRANTにも参加させてもらう予定なので、今も継続的に熱海市内を回らせてもらってます。実際に回ってみると熱海という街の構造自体がすごく面白いんですよね。いくつか目立ったエリアがあるんだけど、そのエリアを横断するには車やバスが必要だったりする。そういった熱海の街の構造を知った上で自分たちがどんなことができるのか、楽しみにしています」(井上)

 果たして11月、あの祭りが再び熱海の街で開催される。いや、実のところ、もうすでにその祭りは始まっているのだろう。

「PROJECT ATAMIの面白さの一つだと思うんですけど、名前に"祭”ってついてないんですよね。グラントだけじゃなくレジデンスも含めたプロジェクトなんですよ。通年にわたって街とアーティストが関わっていってる。そうすることで熱海全体をちょっとずついいものにしていこうとしている。でも、それこそが祭りなのかなとも思うんです。祭りって本当は祭りの時だけではなく、それまでの準備の期間も含めてずっと続いているものなんじゃないかなって」(井上)

「プロジェクトって“投射する”っていう意味もあるらしくて、それは未来へと続いていくものなんですよね。レジデンスなどのプログラムを通してアーティストに熱海の魅力を見つけてもらって、それをプロジェクションする。目に見えるようにする。そういうことなんだろうって思います」(伊藤)

「熱海全体の魅力や価値を上げていきたいという街の人の思いがあって、そこにPROJECT ATAMIが存在していて、さらにその中に個別のアーティストたちがいて、それぞれが自律して動いてる。だけど、それぞれが確実に繋がっていて、影響を与えあってる。最終的には壮大なプランなんだけど、それを構成するひとつずつはすごく細かい。一年を通してそこに関わっているとそういう全体構造が見えてきて、それも面白いんですよね」(河野)

 古代より他所の土地から訪れてきた来訪神への信仰に基づいた祭りは数多くある。ある意味で地域を訪れるアーティストの存在とは、こうした来訪神=マレビトたちの現代的な形なのだとも言えるかもしれない。

「アートやアーティストってストレンジャーなんですよ。その存在が世の中に余白や余裕をつくっていく。全てが効率ベースで動いてしまうとどこもかしこも同じ風景になっちゃうんだけど、アーティストってそういう効率みたいなものとは違うところで、それぞれの文脈や思いつきで、勝手にやりたいことをやっていくんですよね。そうすると否応なく、その場の色味が変わってくる。その人が通り過ぎることで、街の構造自体が変わっていくようなところがある。一年間の祭りを通して50組のアーティストが通り過ぎていったら、きっと街の風景は変わるんです。それこそ商店街のずっと仲が悪かった同士のお隣さんが不意に仲良くなってしまったりするかもしれない。停滞している部分が緩和したり、逆に緊張感が増してしまったりすることもあるかもしれない。基本的に予測不能なんです。だから、今年のGRANTがどうなるかも、まだ全く未知数です(笑)」(吉田山)

information

project-atami7-min

「ATAMI ART GRANT 2022」
11月3日から27日までHOTEL ACAO ANNEXで開催予定。アーティストはレジデンスアーティストである小金沢健人、中村壮志、冨安由真、GROUPなど合計50組が参加し「渦 – Spiral ATAMI」をテーマに制作。詳細は公式HPにてチェック。

DOORS

伊藤 悠

アイランドジャパン株式会社 代表取締役

1979年滋賀県生まれ。京都大学法学部卒業。人間・環境学研究科 共生人間学専攻修了。 京都芸術大学芸術編集研究センター、magical, ARTROOMディレクターを経て2010年islandをスタート。ギャラリーの経営、アーティストのマネジメントから、六本木アートナイトや寺田倉庫、ACAO SPA & RESORT、108 ART PROJECTなど外部企画のコーディネートやプラニングなど、アートと社会を橋渡しする活動をおこなう。2018年には渋谷区神宮前にあるBLOCK HOUSEの2階にギャラリー「HARUKAITO by island」を構える。

DOORS

河野未彩

視覚ディレクター / グラフィックアーティスト

視覚ディレクター/グラフィックアーティスト。2006年に多摩美術大学プロダクトデザイン専攻卒業。音楽や美術に漂う宇宙観に強く惹かれ、2000年代半ばから創作活動を始める。アートディレクション/グラフィックデザイン/映像/プロダクト/空間演出など、女性像や現象に着目した色彩快楽的な作品を数多く手がける。ラフォーレミュージアムや浅間国際フォトフェスティバルをはじめ国内外での展覧会多数。2019年に作品集「GASBOOK 34 MIDORI KAWANO」をGAS AS INTERFACEより刊行。影が彩る照明「RGB_Light」を開発、日米特許取得から製品化まで実現。主な個展に「脳内再生」(HARUKAITO by ISLAND、2022)、「←左右→」(Calm & Punk Gallery、2021)、「not colored yet」(Calm & Punk Gallery、2018)など。

DOORS

吉田山(YOSHIDAYAMAR)

Art Amplifier(アート・アンプリファイア)

富山県出身アルプス育ち。近所でのフィールドワークを基に、そのアウトプットとしてアートスペースの立ち上げや作品制作、展覧会のキュレーション、ディレクション、コンサルティングや執筆等の活動をおこなうアート・アンプリファイア。FLOATING ALPS合同会社代表。近年の主なプロジェクトとしては、MALOU A-F(Block House,東京,2022)、のけもの(アーツ千代田3331屋上,東京,2021)、「芸術競技」+「オープニングセレモニー」(FL田SH,東京,2020)、「インストールメンツ」 (投函形式,住所不定,2020)等。

DOORS

GROUP

建築コレクティブ

井上岳、大村高広、 齋藤直紀、棗田久美子、aによる建築コレクティブ。建築プロジェクトを異なる専門性をもつ人々が仮設的かつ継続的に共同する場として位置づけ、建築/美術/政治/労働/都市史の相互的な関係性に焦点を当てた活動を展開している。 主な活動として、設計・施工「新宿ホワイトハウスの庭」(東京都、2021)、設計・運営「海老名芸術高速」(神奈川県、2021)、企画・編集「ノーツ 第一号 庭」(NOTESEDITION、2021)、設計・施工「水屋根」(屋外美術展「のけもの」会場構成)、個展「手入れ/Repair」(WHITEHOUSE、2021)など。

volume 03

祭り、ふたたび

古代より、世界のあらゆる場所で行われてきた「祭り」。
豊穣の感謝や祈り、慰霊のための儀式。現代における芸術祭、演劇祭、音楽や食のフェスティバル、地域の伝統的な祭り。時代にあわせて形を変えながらも、人々が集い、歌い、踊り、着飾り、日常と非日常の境界を行き来する行為を連綿と続けてきた歴史の先に、私たちは今存在しています。
そんな祭りという存在には、人間の根源的な欲望を解放する力や、生きる上での困難を乗り越えてきた人々の願いや逞しさが含まれているとも言えるのかもしれません。
感染症のパンデミック以降、ふたたび祭りが戻ってくる兆しが見えはじめた2022年の夏。祭りとは一体なにか、アートの視点から紐解いてみたいと思います。

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