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INTERVIEW
2022.05.27
アートと鑑賞者の新しい“接点”。アートプロデューサー・高橋亮が実践する「居場所のかたち」
Edit / Eisuke Onda
美術館やギャラリーではなく商業施設や学校、ストリートなど、オルタナティヴな展示空間をつくること、はたまたNFTアートやVRなど技術革新を経てオンライン空間での展示など、ここ数年で、アートを発表する場所はダイナミックに変化を遂げている。
その中でひときわ関西を拠点に精力的に新たなきっかけ・場づくりを続けているのが、アートディレクター・キュレーターの高橋亮さんだ。
彼が携わるのは、大阪のラジオ局、FM802とFM COCOLOが主宰するアートプロジェクト「digmeout」、ギャラリー「DMOARTS」、アジア圏をターゲットとしたアートフェア「UNKNOWN ASIA」、そして、2020年に立ち上がったアートフェア「DELTA」など、とにかく多様なチャネルのプロジェクト。アーティストと鑑賞者、両者に対して居場所を作る活動を続けている彼にとっての、「居場所のかたち」とは。
アート業界は今、“良い流れ”の最中にある
――ここ数年、アート業界では、NFTアートの台頭、既存のギャラリー、美術館などにとらわれず、ヴァーチャル上やオルタナティヴな空間で活発に作品の展示販売がされ、その潮目が大きく変化しています。まずは現状について、高橋さんはどのように感じていますか?
個人的には、良い流れが来ているなと思っています。以前のアート業界は、既成概念にとらわれていたり、関わる人も固定化されていたりと、あまり柔軟性がありませんでした。でも、デジタル面での技術革新やコロナ禍を経て、いい意味で従来の方法が崩れてきています。例えば、アーティストたちは、以前は名のあるギャラリーに所属しなければ、その後の展開がなかなか見込めませんでした。でも今は、NFTのようにギャラリーを介さなくても個人のアクションで作品を知ってもらったり収入を得たりする方法が生まれている。一方で、鑑賞者たちも、気軽にスマホ上でもアートに触れることができる。アーティストと鑑賞者、双方にとって選択肢が増えている今の状況を嬉しく思っていますね。
――実際のお仕事の中でも、変化を感じることはありますか?
数年前に比べて、大企業や行政との仕事が増えていることはひとつの変化だと思っています。僕のやっている取り組みのひとつに、「digmeout」というB to Bをメインにしたアートプロジェクトがあります。これは、クライアントとなる企業や組織から、イベントの演出をしたい、オフィス空間の装飾をしたい、といった要望をお聞きして、それに対して適したアートやイラストレーション、デザインを提供するという取り組みなのですが、数年前に比べて、圧倒的に発注が増えましたね。
高橋亮の手がける「digmeout」とは、アート、イラストレーション、デザイン等をプロデュースするアートエージェンシー。写真は日産自動車株式会社とのコラボレーション。新型SUV「KICKS」をベースにる松村咲希のアートワークを使用しデザインした1台。FM802のライブイベントやモーターショーに出勤した
――JR西日本や日産自動車、スターバックスコーヒーなど、本当に多くの企業とのコラボレーション企画を実現されていますよね。
はい。とはいえ大企業に限らず、大阪の地元の企業などから、オフィスにアートを取り入れたいという相談もたくさんいただいています。それも、由緒正しい画廊やオークションで、数億円の名画を購入する、と言う肩肘はったものではなく、企業の社長さんが、好きなものを素直にそのまま買う、というもの。いい意味で、“買い物感覚”でアートを楽しんでもらえるようになってきているなと感じますね。
――社会全体としても、アートへのハードルが下がってきているんですね。
そうですね。基本的にアーティストは個人事業主だし、ギャラリーも零細企業。社会の中ではどうしても弱い立場だったのですが、今は少しずつ存在意義を確立しつつあるように思います。とはいえ、まだまだ日本はアート後進国。いかにアーティストと鑑賞者の接点を作り、アートを身近なものにしていけるかが、僕たちの活動の軸のひとつになっています。
ラジオ局を、アーティストと鑑賞者の新たな接点に
2020年10月に大阪南森町のFM802 / FM COCOLO のオフィスを会場に開催した展覧会「ART in OFFICE “SESSEN”」。写真は、小会議室に展示されたアーティスト溝渕珠能の作品
――アートを身近にするアプローチという意味では、高橋さんは現代アートギャラリー「DMOARTS」の運営にも携わられ、オルタナティヴな展示の場づくりにも取り組まれています。手応えを感じられたプロジェクトはありましたか?
2020年に行った『ART in OFFICE “SESSEN”』でしょうか。僕らの活動の運営元であるFM802とFM COCOLOのオフィスで行ったアート企画です。局の会議室には普段、「DMOARTS」のコレクションや所属するアーティストの作品を飾っているんですが、3日間だけ、1部屋1アーティストという形で作品を展示し、アートフェアという形で一般に開放しました。名前の“SESSEN”とは、数学で用いられる「接線」のこと。点と点を繋ぐのではなく、この企画でアートやアーティストとお客さんとが出会う機会=点を作り、そこから先、両者の繋がりが線のように続いていくといいなという願いを込めて付けたものです。
展覧会「ART in OFFICE “SESSEN”」で展示会場となったラジオ局の大会議室。壁はもちろん、椅子やテーブルなど、いたるところにYUGO.の作品が展示される
――ラジオ局の会議室をそのまま展示空間にするというのは、斬新ですね。
アートが分からない、興味がないという方でも、普段ラジオを聴いていて、「FM802のオフィスに入ってみたい」と思うリスナーはいる。動機はなんであれ、足を運んだ方がアートに触れて、意外と面白いんだなと知るきっかけになれば良いなと思っていました。また、FM802には、広告会社や協賛企業など、多くのクライアントが出入りしています。展示するアーティストにとっても、一般的なギャラリーやアートフェアなどでは出会えない人たちとの接点ができるきっかけになり、実際にそこから作品販売や仕事へと派生することもありました。大きな反響をもらいましたし、特異な機会を作れたのかなという感触はありましたね。
――2020年からは新たな現代アートフェア「DELTA」も始められました。これはどんな思いから立ち上がった企画だったのでしょうか?
コロナ禍で国際的で規模の大きなアートフェアが中止・延期になる中で、大々的にでなくても国内で、ギャラリーの規模感でできる新たなアートフェアを考えてみようと、同世代の仲間たちと共にはじまったのが「DELTA」です。これまでのアートフェアって、出展するギャラリーは、設立年数や常設スペースの有無、企画展の開催実績や他のアートフェアへの参加歴などについて基準があって、それをクリアして初めて参加することができるんです。それに対するカウンターではないですが、「DELTA」では、これまでの実績ではなく、マインドを共にできるかどうかを基準にギャラリーを選んでいきました。結果的にオルタナティヴなギャラリーやアーティストたちが集まるフェアになりましたね。
高橋亮と岡田慎平の共同開催というかたちで2020年に大阪でスタートしたアートフェア「DELTA」。全国でオルタナティブな活動をするギャラリーが集う。写真は2021年9月〜10月に寺田倉庫のWHAT CAFEで開催した「WHAT CAFE × DELTA EXHIBITION -Expansion-」の様子
――フェアそのものの作り方は、どんなところを工夫しているんですか?
通常のアートフェアでは、出展が決まったギャラリーは、それぞれのブース内では何をしても自由。主催者は、あくまでもスペースを提供するだけでした。でも「DELTA」では、出展ギャラリーに対して「このアーティストは出してほしい」「こんな方針で考えてほしい」というリクエストをして、フェア全体としての温度感を共有したり、方向性を統一したりするように心がけています。もちろん、展示内容をギャラリーに委ねる方が僕らとしても楽だし、ビジネス的にも効率がいいんですが、それでは若い世代にも魅力を伝えられる機会にならないと思ったんです。
写真はDMOARTSのエリアで、手前に高橋知裕、奥が松村咲希の作品が並ぶ
ーー幅広い層へ伝えていくためには、隅々まで思いが共有されてたフェアであることが必要だ、と。
そうですね。僕らミレニアル世代や、さらに下のZ世代になると、上の世代と価値観が大きく異なっています。情報に溢れた環境で育った世代だからこそ、自分がそれに価値を感じるかをシビアに見極めてお金を使う。だからこそ、単純にいくつものギャラリーが集まっただけでアートを見せるのではなく、自分達が本当に価値があると感じるものをいかに明確な意志をもって、フェア全体として見せられるかが重要だと考えました。
アーティストの居場所を、継続的に作るために
2021年10月にグランフロント大阪で開催された「UNKNOWN ASIA」。「大阪からアジアへ、アジアから大阪へ」をテーマに高橋が手がける国際的なアートフェアだ
ーー「digmeout」に「DMOARTS」、そして「DELTA」など、高橋さんはいくつものチャネルを持ち、様々なアーティストたちと観賞者を繋ぐ機会を作っていらっしゃいますが、より幅広い層へ“アートの魅力を伝える”上で一貫して大切にしていることはありますか?
作品のキュレーションに関しては、分かりやすさや、見た目の“強さ”は大事にしていることかもしれません。アートって本来、コンテクスト=文脈を大事にして作られるもので、その作品がどういう位置付けで作られているのかも、どんな作品から引用されているのかということも重要なポイントのひとつです。でも、知識や情報を抜きにして、美しいな、好きだな、と直感的に選ぶことだってあっていいと思っていて。なのでビジュアルとしてクオリティの高い作品を選んでいます。あと、今の若い世代は、作家のパーソナリティも含めて作品を買うことが多い。作品を介してではなく、直接的に作家とお客さんが話してもらえるような機会を作ることは心がけていますね。
2021年10月にグランフロント大阪で開催した「UNKNOWN ASIA」の会場。コロナ禍ということもあり出展者と来場者は減少したものの、国内外130組み以上のアーティストが集い、来場者は1万人を超えた
――仮にアートに造詣が深くなくても、魅力的だと思ってもらえるようなきっかけを、あらゆる場で演出されているんですね。
かといって、場づくりについては、カジュアルになりすぎないようには気をつけています。多くの人に興味や関心を持ってもらえるのはいいことですが、質を落としては本末転倒。アートが好きなお客さんにも満足していただきたいし、新しい人たちにも響くものにもしたい。この両面を意識して、展示のクオリティも、作家や作品のキュレーション自体も、こだわりを持って向き合っています。
――一方で、高橋さんの活動は、アーティスト側の挑戦を後押しして、彼らの居場所を作っていくという面でも意義があります。アーティストと接するときは、どんなことを大切にされていますか?
一番は、信頼関係を作っていくこと。どういう絵を描くか、内容についてはもちろんですが、条件面も含めて、あくまでもフラットに相談し合える関係を築くことが大切だと思っています。残念ながら、僕と出会ったからといって一生アーティストで食べていけるというわけではありません。僕らが2015年から続けているアジア圏のアーティストが一堂に介するアートフェア「UNKNOWN ASIA」もそうですが、参加してもらうことがゴールではなく、ここでの信頼関係を築いて、そこからどうやって発展させていくかを一緒に相談していける間柄でありたいなとずっと思っています。
アートを持つこと。それが自分の居場所になる
高橋さんの自宅、玄関に飾られているのは、ニューヨークを拠点に活動するカリグラフィーアーティスト・IT’S A LIVINGこと、Ricardo Gonzalezの作品『WRITING IS PAINTING』
――高橋さんは、アートのある暮らしのどんなところが魅力だと感じますか?
生活の中に“違和感”を生んでくれることだと思います。アートって、机や椅子のような家具に比べて、際立って特徴が強いもの。目に馴染むことなく、いい意味で空間に刺激をもたらし続けてくれるものだと思います。また、ずっと一緒に暮らしていると、自分の心情の変化だったり積み重ねてきた経験によって見え方が変わってくることもあるんです。僕自身も、アートが好きでたくさん持っていますが、10年以上前に買った抽象的な絵画も、改めてまじまじと眺めてみると「これは何を書いているんだろうか」「こんな風にも見えるな」と新しい発見があることもある。作品そのものが変容していくことが、アートの面白さのひとつだと思います。
――持ち主自身が変わることによって、アートも自ずと変化していくんですね。
はい。そう考えると、好きなアートを持つことそのものが、自分の居場所を作ることにもなるのかもしれませんね。
――それは、具体的にはどういうことですか?
アートって、基本的には、大量生産品ではなく一点ものが多い。自分が好きで選んだ作品は、紛れもなくその1点しかなくて、それを持っているということ自体がすでに自分の存在証明になると思うんです。そして、長く持てば持つほど、そのアートは自分に合わせて変化し、より意味のあるものになっていくし、そんなアートが増えれば増えるほど、飾る空間はどんどん自分ならではの場所になっていく。アートには、自分の居場所をクリエイトするための機能があると言えると思います。
――なるほど。では改めて、高橋さんにとって“居場所”とはなんですか?
居場所とは、自分の“好き”や“関心”そのものなのかも。僕にとっては、物理的には仕事場もそうですし、家もそう。好きなアートに囲まれている時間や場所はすごく居心地が良く感じます。そして新しいことを知ることで、“好き”はどんどん広がっていきますよね。アーティストも日々新しい作品を生み出し続けるように、新しいアートに触れて、“好き”の範囲を広げていくことで、絶えず自分の居場所を拡張していけたら良いなと思います。そして活動の中でも、多くの人の居場所になれるようなアートとの接点を作っていきたいですね。
information
三浦光雅 個展「come and go」
高橋亮が企画を担当するギャラリー「DMOARTS」では、5月27日から関西を拠点に活動するアーティストの三浦光雅の個展を開催します。「意識と無意識」、「作為と無作為」、「生産と非生産」をテーマにした平面作品を制作してきた三浦のこれまでの作品と、本展に合わせて発表する新たな作品のシリーズも展示します。
会期:5月27日(金)〜6月5日(日)
営業時間:13:00〜19:00 ※最終日のみ17:00閉場
会場:大阪市中央区北浜2-1-16 THE BOLY OSAKA B1F
公式HP:https://dmoarts.com/
GUEST
高橋亮
ギャラリスト・アートディレクター
1988年大阪府生まれ。FM802 / FM COCOLOのアートプロジェクト「digmeout」プロデューサー。クライアントワーク等のアートディレクションを多数手がける。また、アートギャラリー「DMOARTS」ディレクターを務め、展覧会のディレクション、国内外のアートフェアへの出展、アーティストマネジメントなどを行うほか、2015年には大阪発のアートフェア「UNKNOWN ASIA」を立ち上げ、実行委員会メンバーに。2018年よりエグゼクティブプロデューサーに。さらに、2020年には大阪で新しいアートフェア「DELTA」を立ち上げ、共同代表として活動するなどアートシーンの発展と拡大に注力している。
volume 02
居場所のかたち
「居場所」はどんなかたちをしているのでしょうか。
世の中は多様になり、さまざまな場がつくられ、人やものごとの新たな繋がりかたや出会いかたが生まれています。時にアートもまた、場を生み出し、関係をつくり、繋ぐ役目を担っています。
今回のテーマではアートを軸にさまざまな観点から「居場所」を紐解いていきます。ARToVILLAも皆様にとって新たな発見や、考え方のきっかけになることを願って。
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