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INTERVIEW

2022.01.20

「創造主が作ってくれたこの美しいデザインに、人類で一番気付ける人になりたい」 / 「部屋から、遠くへ」武田双雲インタビュー

Interview&Text / Tetsutoku Morita
Photo / Makiko Takemura

たとえ家の中にいても、遠くに足を運ぶことができなくても、アートとともに暮らすだけで、私たちはどこにでも旅立っていける。ARToVILLAの初回特集「部屋から、遠くへ」は、そんな思いを込めて設定されたものです。人にはアートを鑑賞して別の世界を感じる“想像力”があります。それは実際に美しい場所へ行ったり、旧友と話すのと同じ感動をもたらします。コロナ禍を経て、人がより切実にアートを求める時代になったのかもしれません。そんな声に応えるが如く精力的な活動を続ける書道家の武田双雲さん。2022年1月13日より開催される個展「飛翔」に「部屋から、遠くへ」という特集テーマと通じるものを感じ、インタビューを行いました。

ステイホームで疲れてる時に、僕みたいな前向きのエネルギーを欲してくれた

ーーコロナ禍で外出や移動が制限された期間は、どんな思いで過ごされていましたか?

行動制限以上に“心の制限”を感じました。もともと、日本て同調圧力が強い国だと思うんです。同じ言葉だし、島国というのもあって。その同調圧力がさらに分厚くなった気がするんですよね。良いことかもしれないけれど「みんなで苦しもう。みんなで我慢しよう」みたいな。楽しんじゃいけないような空気があって。僕はそっちの方がつらいと思うんです。物理的な不自由に、掛け算で心理的不自由が見えないかたちで襲ってくる。そしていつ解放されるかわからないみたいな。見えないぶん、わかりにくいんだけど、みんな羽をもがれた感じになっていたと思います。

 ーー自粛期間中の書道の活動は?

お陰様で個展のタイミングでちょうどロックダウンが解除されたり、運良くこの2年、継続して開催できたんです。その間、規模も大きくなっていって。ステイホームで疲れてる時に、僕みたいな前向きのエネルギーを欲してくれたのか、たくさんの方が個展に足を運んで作品を買ってくださった。それでどんどん火がついちゃって今回の「飛翔」にもいたるんですけれど。

『ポジティブの教科書』(主婦の友社)
武田双雲さんが実践している「自分も周りの人も幸運体質になる3つの基本と11の法則」をまとめた自己啓発書。2013年11月に出版、口コミ広がり30万部のベストセラーとなった。ポジティブさは生まれつきの性格で決まるのではなく、ひとつの「技術」であり、素直に学び習得していけば習慣化し、人生という道のりを誰しも楽しんで歩んでいけると説いている。

『ポジティブの教科書』(主婦の友社)
武田双雲さんが実践している「自分も周りの人も幸運体質になる3つの基本と11の法則」をまとめた自己啓発書。2013年11月に出版、口コミ広がり30万部のベストセラーとなった。ポジティブさは生まれつきの性格で決まるのではなく、ひとつの「技術」であり、素直に学び習得していけば習慣化し、人生という道のりを誰しも楽しんで歩んでいけると説いている。

美しいデザインに人類で一番気付ける人、感動できる人になりたい

ーー武田双雲さんは30万部のベストセラー『ポジティブの教科書』をはじめ書籍でも前向きに生きる方法を発信されてきましたが、コロナ禍で心掛けたことはありますか?

作品制作もするんですが、アウトプットするにはインプットしないと。食べなきゃ出ないのと同じ理屈で、これは絶対そうなんです。コロナ以前は、いろんな国へ行ったり、活動することでエネルギーを得ていたんですが、それが止まってどうしよかなとなった時、思ったのは、日常の中からエネルギーを貰うということでした。僕はADHD(注意欠陥・多動性障害)で、子供の頃、授業を聞けなかったんです。落ち着きがないから、絶えず遊び道具を探すんですよね。カーテンが揺れてたら一緒に揺れて自分もカーテンになりきるとか。消しゴムの触り心地だけでずっと遊ぶとか。暇つぶしなんですが、ある意味僕はそれが一番クリエイティブだと思っていて。その時のことを思い出して、“何でもないものでどれだけ遊べるか”っていうことをやってみたんです。どんどん子供みたいになっちゃうんですが、例えばドライヤーでどれだけ感動できるかゲームとか。

 ーー感動ゲーム。楽しそうですね。

ドライヤーを見ながら「聖なる風よ出でよ」って言うんです。渋い声で。歯ブラシなら、昨日もやったんですけど、手に持って「古の剣」て言うだけ。僕らの世代は古(いにしえ)って言葉にするだけで興奮するんでしょ? その感じで歩くことさえも、楽しむんです。今あるもので遊ぶ。そうすると何気ない妻の表情や子供の目に、言葉にならない感動を覚えるんです。日常の中に宇宙を感じるたいな。恵みを感じるところまで踏み込めたんですよね、ステイホームのおかげで。それが僕にとっては、プラスに働いたのかなと思います。

ーー宇宙といえば、武田双雲さんは物理学にも詳しいとお伺いしました。

はい。宇宙物理学オタクで、中学校から量子力学ガチ勢です。なぜ好きかというと、壮大なスケールの宇宙と、原子以下のミクロな世界があって、僕らが感知できるのはそのわずかな範囲だけなんです。けど、物理学を使えばレンジが広がる。インプットしたいということは感動したいわけですよね。そこに物理学が入ってくると、例えば、今CGで遺伝子の動きや素粒子の正体みたいなものが見れる。その世界を知ることで感動がより広がるじゃないですか。 

ーー感動することでインプットされる。

そうですね。感動力って、自分一人だと限界があるんです。だってブラックホールって想像できないじゃないですか。電子の動きなんて思いつかないし、それはアインシュタインなんかが見つけてくれたところを借りた方が早い。自分のクリエィティビティっていうより、この世のクリエイティビティですね。創造主が作ってくれた、この美しいデザインにどれだけ気づけるか。そのゲームだと思ってるから、できれば人類で一番気付ける人、感動できる人になりたいと思ってます。感動しても感謝しても足りないんですよ。あとからどんどん出てくるから、この2年でそれがまた加速したんです。それが「書」に出てきたりもしてるんで、作品のエネルギーも上がってるんだろうと思います。

より自由に、無邪気に。

ーーエネルギーはどのような形で作品に表れていますか? 

より自由になりました。もともと自分は書道家としてはかなり自由な方だと思うんですけど、さらに自由になってきたというか…。アートの良い所は制限がないことですよね。ルールがありそうでない。そこがすごく心地よくて、自分の中の“多動性”を活かして、どんどん取っ散らかしていったんです。普通は作風を統一していくじゃないですか。それを逆に、エントロピー*を増大させ無秩序へ。“双雲らしさ”をどんどんカオスに向けていった時にどうなるか? わかんないからとりあえずやってみたんです。かわいい、カッコ悪い、カッコいい、汚い、綺麗、清濁、明暗、闇と光、正統派な書道から、コーヒーをこぼすだけみたいなものまで、とにかくありとあらゆる自分の中の考えられる以上のものを作って、そうして個展やらせてもらった時、それがどこにも収斂(しゅうれん)しないんですよ。正統派の書を買ってくださる人もいれば、それ買うんですか? みたいなふざけたやつとかも。あらゆる自分を出してみたら、それぞれに好きって言ってくれる人が現れた。だからめちゃくちゃ癒されたんです。 

*エントロピー:混沌(混沌)性・不規則性を含む、特殊な状態を表すときに用いられる概念。乱雑さの度合いを表す尺度のこと。

ーー広がっていく作品群で通底するテーマはありますか?

今回、テーマの一つが“無邪気”だったんです。僕らみんな無邪気だったじゃないですか。3〜4歳くらいまで、理由なく興奮してましたよね。空き缶蹴って、石ころ蹴ってドブに落ちて、あ〜〜みたいな。あの感覚にどこまで戻れるかという実験なんです。大人になるといろいろ考えちゃう。これは正しいとか、怒られるんじゃないかとか。売れる売れない含め、アートとしてどうか、武田双雲としてどうかなみたいな。それを、どこまでゼロにできるのかって。そういう“邪気”はいったん脇に置いて。否定してもダメなんです。絶対にいるから、無かったことにしてはいけない。かといって積み上がってきた邪気は厚く、処理しようとしても間に合わないので、スッと“無邪気ワールド”という並行世界に行く感じですね。それをどこまでできるか。ピカソが晩年「やっと3歳の線が描けた」って言った逸話があって。その気持ち、すげーわかるんですよ。3歳の子供が筆を持ってパッと描いた線に絶対敵わないんですよね。うちの息子も3歳くらいの時、キャンバスにハケで墨を塗っていく様子をインスタグラムにアップしたら、何百万と再生されたことがあって。みんな感動するんです。僕がやるより全然バズる。3歳児に勝てない。それが無邪気ですね。邪気ゼロ。パッとやる時の動きに無駄がない。そう考えるとうちらは無駄だらけです。

ーーピカソも憧れていた。 

ピュアな心に戻りたいんです。ジャッジのない世界。清濁が別れる前みたいな。チャレンジに近いかもしれないです。ゼロは無理だとわかってるんですが憧れてるっていう。“無邪気オタク”っていうのかな。ちょうど僕は3人子供がいて、今、小1と中1、高1なんですけど、子育てにハマっちゃって。ハマったのは彼らが“師匠”だから。「なんで。そんな目するの?」とか。見てて感動するんです。今でも。

ーーお子さんが師匠?

そうです。子育てから学んだことはめちゃくちゃ多くて。一番上の息子が赤ん坊だった頃、自分の手を見てたんです。初めはぼーっと。で、目が見え始めたんでしょうね。「ほっ」てびっくりしたんです。この瞬間が僕、忘れられなくて。多分「なんだこれ?」から「あ、これ俺が動かしてるの!」って気づいたみたいな。そういうところに行きたいんですよ。僕は「new」に「a」を付けて「anew」て言ってるんですけど。“新鮮メガネ”をかけて、すべてが初めての感覚で行きたいんです。一番ワクワクするのって初体験の時じゃないですか。

『感謝の教科書』(すばる舎)
今春発売予定。ミーティングの一部を公開収録した内容が、武田双雲さんのYouTubeチャンネルにアップロードされている。

『感謝の教科書』(すばる舎)
今春発売予定。ミーティングの一部を公開収録した内容が、武田双雲さんのYouTubeチャンネルにアップロードされている。

感謝と芸術鑑賞は同じ言葉。感謝、楽、そして飛翔へ。

ーー今回ARToVILLAは「部屋から、遠くへ」というテーマを掲げています。これは観る者の想像力を掻き立て“新たな世界へと誘う”アートが持つ特性のパラフレーズで、今のお話に通じるものがあると感じました。このテーマに関連する武田双雲さんの“アート観”があれば教えてください。 

僕もアートや物理学を通して、想像の世界へ行くけど、そういう意味ではまさに“扉”なんだと思います。そこから行ける“何か”があるわけじゃないですか。本当におっしゃる通り。あと僕ね“感謝オタク”ってプロフィールにも書いていて。

ーー今春、すばる舎より『感謝の教科書』が発売予定ですね。

はい。“感謝がいかにすごいか”を伝える本なんですが、僕自身、今までずっと感謝をテーマにやってきて。ただ楽しんで、無邪気にはしゃいでいたら、怒られるどころかみんな喜んでくれて、いっぱい恵みをくれると言う。どんどん良いことが起こるから感謝するしかないじゃないですか。で、そうなった時、「感謝」って英語では「appreciation」って言うんです。アメリカに行くと「Thank you」も使うけど「I appreciate you」って表現があって。良い言葉だなと思って、ふと「appreciation」を辞書で調べたんです。そうしたら「感謝」より上に「芸術鑑賞」って意味が出てきた。芸術鑑賞と感謝が同じ言葉だと知った時、僕の中ですべてが繋がって鳥肌が立ちました。僕は「この地球にあるものは創造主が作った芸術」だと捉えています。アートはそれに感動した人間が、神への“感謝”として生まれた芸事だったと。

ーー「感謝」の深層には神への返礼として行われた神事がありそれがアートの起源なのかもしれない。だから「感謝」と「芸術鑑賞」は一つの言葉という考えはすごく面白いですね。

僕は以前から「楽」をモチーフにしていて、作品の半分以上が「楽」なんです。「楽」の字を見ると、木の上に白があって、その横に髭がありますね。あの髭は鈴で、「楽」という字は感謝祭を表しているんです。神様に、ありがとうって言ってる。そこで芸事が生まれたわけです。書道家は神様の言葉を下ろして、牛の骨や亀の甲羅に文字を刻んだ。それが書道の始まり。書道家はシャーマンなんですね。

ーー「楽」を選ばれた時、字が生まれた背景はご存知だったんですか?

それが知らなくて、ただ「楽しい」をずっと追求していたら、「感謝」にたどり着き、感謝を広めようと思ったら「appreciation」が出てきた。結局ぐるぐる、英語と漢字と僕がやってきたこと、感動とか、ドライヤーとか今日話したことが全部繋がるんですよね。アートがなんなのかわかんないけど、僕は個展を心から神事だと思ってます。苦しみがないんですよ。書かせて頂いてるって言う感覚で。道具に感謝して、文字ってものを頂いて。概念があって、エネルギーがあってそれを人間が受け取っている。よくわからない偉大なる存在「awesome」から。

ーー「awesome」とは?

英語の「awesome」って若い子がよく使う言葉ですが、「awe」は畏敬の念って意味があるんです。自然に対して「偉大すぎてわかんねー」みたいな。空を見てすごいと思うじゃないですか。なんなのこれ?ってあの感覚です。あまりにも凄すぎて理解できない。だから「感謝」ってほら「謝る」って字があるじゃないですか。畏敬してすいませんって神を感じてる。偉大すぎて尊敬しちゃう「ははーありがたやー」みたいなみたいな感覚が「awe」です。「some」はsomething、何かいらっしゃる、なんだこれは?っていう感動です。「この感動を処理するには、感謝しかない」と、そういう感覚で、僕はこの「awesome」をずっとやってるだけなので、生みの苦しみとか、スランプはまったくないんです。「ありがとうございます。書かせて頂きます」という流れの一連。アートっていうのはもともとこういうことじゃないかなと思うんですよ。大いなるもの。畏敬の念をどれだけ表現するか、その起点がアーティスト。

ーーアートは普段気付かなかった事に意識を向けてくれるてくれる効果もあると思います。

おっしゃる通りで、普通に生きてたら絶対、感動力って落ちていくと思うんですよ。普通になっちゃう、感謝の逆って「当たり前」だと思う。それをいかに逆へ。ある意味ロックですよね、ホメオパシー、恒常性みたいなものに抗う作業というか。それがクリエイティブじゃないのかなと。普通に生きてたら絶対、感性って閉じていくし、だんだんつまんなくなっていくんですよ。それに反抗してる感じですね。絶対おっさんにならないみたいな。

ーー今回の「飛翔」というタイトルにもその気持ちは?

それもありますよね。何もしないとどんどん不自由になっていく。自ら飛翔していかないと、飛ぼうと思わないと飛べない。時代は飛ばしてはくれないんで、やっぱり自分で行かないと。それも含めてね。「飛翔しようぜ」っていう。ある意味ロックなメッセージもありますね。

ARTIST

武田双雲

1975年熊本生まれ。幼少期より母である書道家・武田双葉氏に師事。東京理科大学卒業後、NTTに就職。約3年後に書道家として独立する。NHK大河ドラマ「天地人」や世界遺産「平泉」など、数々の題字を手掛ける。講演活動やメディア出演のオファーも多数。2019年3月、2回目のカリフォルニア個展開催、9月チューリッヒアートフェア出展、2021年、スイス VOLTA BASEL出展など世界各国で活躍する。2019年元号改元に際し、日本郵便「令和」記念切手に書を提供。ベストセラーの「ポジティブの教科書」(主婦の友社)をはじめ、著書は50冊を超える。

volume 01

部屋から、遠くへ

コロナ禍で引きこもらざるを得なかったこの2年間。半径5mの暮らしを慈しむ大切さも知ることができたけど、ようやく少しずつモードが変わってきた今だからこそ、顔を上げてまた広い外の世界に目を向けてみることも思い出してみよう。
ARToVILLA創刊号となる最初のテーマは「部屋から、遠くへ」。ここではないどこかへと、時空を超えて思考を連れて行ってくれる――アートにはそういう力もあると信じています。
2022年、ARToVILLAに触れてくださる皆さんが遠くへ飛躍する一年になることを願って。

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