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ESSAY

2022.03.04

時空を超えて、稀代の絵画が生まれたアトリエへ。 / 鈴木芳雄(美術ジャーナリスト)

Text / Yoshio Suzuki
Photo / Hiromi Kurokawa
Edit / Emi Fukushima

特集「部屋から、遠くへ」では、アートを愛する方々が“遠く”を感じる作品についてのエッセイを綴ります。美術ジャーナリストの鈴木芳雄さんが紹介するのは、20 世紀イタリアの重要な画家、ジョルジョ・モランディのアトリエの様子を写真家、ルイジ・ギッリが切り取った作品。自室に飾り眺めることで、アトリエに実際に足を運んだ際に感じた記憶が蘇ってくるそうです。

ルイジ・ギッリ「Atelier MORANDI」

写真家ルイジ・ギッリによる最晩年の作品群。1989年11月から1990年夏にかけて、卓上の瓶や容器、花瓶などを組み合わせた静物画を多く残した画家のジョルジョ・モランディ亡き後のアトリエを撮影したシリーズのうちの一枚。ボローニャにもアトリエを持つモランディだが、この写真はボローニャの南南西40キロの町、グリッツァーナにあるアトリエで撮影されたものだ。同シリーズの作品は『須賀敦子全集』(河出書房新社)の装丁にも使われている。

写真が想起させる、旅の記憶とある画家の静かな暮らし。

イタリアの画家ジョルジョ・モランディ(1890-1964)のアトリエを同郷エミリア=ロマーニャ州出身の写真家ルイジ・ギッリ(1943-1992)が撮っている。ボローニャの街中、フォンダッツァ通り36番地のアパートにあった自宅兼アトリエ。そしてもう一つ、ボローニャから南に40キロ、アペニン山脈の麓の村グリッツァーナで夏を過ごすアトリエだ。

2018年に僕はその2つのアトリエを訪ねた。ボローニャのアトリエはアパートの一室。狭くて、絵に登場する瓶や壺ほかたくさんのオブジェ、画材が置いてあった。しかもそこは寝室兼用。目覚めると描き、描き疲れるとベッドに横になったのだろうか。グリッツァーナは一軒家でアトリエは2階にあり、扉を開けると柔らかい陽が差していた。訪れる人は多くないようで、知り合いの家に招かれたような感じだった。

ギッリがその部屋を日本製の6×7判のカメラで撮影した写真の1枚を僕は持っている。自分の部屋にそれを掛けることであのアトリエとつながっている気がするのだ。

DOORS

鈴木芳雄

編集者・美術ジャーナリスト

マガジンハウスにてブルータス副編集長を約10年間務め、「奈良美智、村上隆は世界言語だ!」「杉本博司を知っていますか?」「若冲を見たか?」などの特集を担当。現在は雑誌、書籍、ウェブへの美術関連記事の執筆や編集、展覧会の企画や広報のほか、美術を軸にした企業戦略のコンサルティングなども手がけている。ウィリアム・エグルストン、ウォルフガング・ティルマンス、ヒラ・ベッヒャーらほかインタビュー多数。

volume 01

部屋から、遠くへ

コロナ禍で引きこもらざるを得なかったこの2年間。半径5mの暮らしを慈しむ大切さも知ることができたけど、ようやく少しずつモードが変わってきた今だからこそ、顔を上げてまた広い外の世界に目を向けてみることも思い出してみよう。
ARToVILLA創刊号となる最初のテーマは「部屋から、遠くへ」。ここではないどこかへと、時空を超えて思考を連れて行ってくれる――アートにはそういう力もあると信じています。
2022年、ARToVILLAに触れてくださる皆さんが遠くへ飛躍する一年になることを願って。

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