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2025.10.15

アーティスト RITSUKO 編 / 連載「作家のアイデンティティ」Vol.40

Photo / Kyouhei Yamamoto
Edit / Eisuke Onda

独自の切り口で美術の世界をわかりやすく、かつ楽しく紹介する「アートテラー」として活動する、とに〜さんが、作家のアイデンティティに15問の質問で迫るシリーズ。今回は会社員として働きながら、日本画をルーツにした作品制作を行うRITSUKOさんに迫ります。

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アーティスト ABANG 編 / 連載「作家のアイデンティティ」Vol.39 はこちら!

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アーティスト ABANG 編 / 連載「作家のアイデンティティ」Vol.39

  • #アートテラー・とに〜 #連載

今回の作家:RITSUKO

2018年東京藝術大学美術学部 絵画科油画専攻 卒業。インド・アメリカにルーツを持ち、現在は東京/京都にて活動。2014年以降、具象的な形と抽象的な色彩を融合させた半抽象絵画を発表。2018年より東京藝術大学名誉教授 宮迫正明氏に師事し伝統的な日本画技術を学び、抽象絵画と日本画技術を組み合わせた表現方法を開発。2020年より、「半抽象絵画」「日本の伝統画材」をベースとし、主に花を対象に絵画表現に組み込んだ制作手法を編み出す。2025年、KIT虎ノ門大学院でMBA(経営管理修士)を修了。久米賞(2015)受賞、Tokyo Art Olympia (2015) 入選、Tokyo Wonder Seed (2016)入選。

artwork04-artist-identity-40_ritsuko「Rainforest series <Leopard>」 W53cm×H53cm×D5cm   制作年:2025 ミクストメディア

artwork03-artist-identity-40_ritsuko「Rainforest series <Hornbill>」  W45.5cm×H45.5cm×D5cm   制作年:2025 ミクストメディア

 

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RITSUKOさんに質問です。(とに〜)

今回のゲストは、アーティストのRITSUKOさん。プロフィールを拝見すると“会社勤務をしながら制作活動”とあります。さらに、幼少期にインドとアメリカで過ごした経験があり、そのバックボーンから、日本の美意識と西洋の美意識との融合を図った作品を制作している、ともありました。そんな彼女が描くのは、具象画でもない抽象画でもない「半抽象絵画」とのこと。 どちらでもないようで、どちらでもある。謎めいた彼女に15の質問に迫ってみたいと思います。


Q01. 作家を目指したきっかけは?

幼少期から「通常のコミュニケーション」よりも「絵を通したコミュニケーション」を得意とし、自らのアイデンティティは絵だと自認していました。中学生時代、絵本作家を生業としている母校の卒業生と話す機会があり、絵を生業にすることへの道を意識し始めました。大学以降は、村上隆、草間彌生、藤田嗣治など世界で活躍するアーティストの生き様に影響を受け、日本的な美意識を持って国際的に評価されたいと思うようになりました。

「藝大時代の活動」

藝大での学生生活で、才能あふれる同級生や先輩が、絵と関係のないアルバイト(唐揚げ屋、ガソリンスタンドなど)をしている現状を目の当たりにし、彼らが自身の表現で生活できる環境の必要性を感じました。プロの画家として日本で生きる方法を模索する中で、学生のうちから自分の才能でお金を得る経験を積むため、自らデザインチームを立ち上げました。自分で営業してパン屋の改装案件を獲得し、同級生にロゴや包装紙の制作を依頼して、自身も実務経験を積むなどの活動を行っていました。

現在もインテリア設計の仕事を続けているRITSUKOさんは、「自分がデザインを担当した飲食店が雑誌に掲載されたこともあるんです」と笑顔で語る

「日本のアーティストの、経営者視点の欠如とその補完」

作家は「個人事業主」として作品制作から収益化までを担う必要があります。しかし、日本の美大や芸大では、経営者としての視点や事業運営のフォローに関する話が不足している現状があると思います。大学卒業後、作家が金銭や権利の面で、ギャラリーや顧客と揉め、裁判沙汰になるケースが頻発していることを知りました。これらの問題を未然に防ぐためにも、「経営者目線を持った作家」が増えるべきだと考え、社会人大学院でMBAを取得しました。これからは単なる画家としてではなく、経営的な視点や社会的なルール・制度を取り入れた作家活動を心がけていこうと思います。

Q02. 「輪廻転生」をテーマに制作するようになった理由は何ですか?

一生をかけて描くテーマを模索する中で、社会人と作家など、2つ以上の全く別の世界を行き来する行為の面白さに気づきました。

中でも、日本画と西洋画(油絵)という二つの絵画ジャンルの面白さに着目。西洋的な抽象表現に日本画的な技法を加えるなどして、二つの世界観を織り交ぜて繰り返す絵画表現を模索しています。

その中で、表現だけでなく「東西の思想的な混じり合い」も追求した結果、「命や思想の循環」を重ね合わせた「輪廻転生」をテーマにするようになりました。

 

Q03. 具象画でも抽象画でもない「半抽象絵画」の魅力(≒長所)を教えてください。

抽象表現に慣れていない人でも楽しめることです。画面内に配置された色や形の中に花や生き物など見慣れた有機的な形が垣間見えることで、画面上の表現と繋げて様々な世界観を想像しやすく、新しい視点を発見できるように工夫しています。


Q04. 一般の具象画や抽象画よりも、明らかに手順(工程)の多い作品だと思います。それら数ある工程の中でもっとも好きなものは何ですか?

最初から完成形のイメージがあるわけではなく、その都度、空間の中で最も活きる色と形を取捨選択し、慎重に吟味して塗り重ねています。制作途中であっても、常に抽象表現として色彩バランスが完成している状態を保ちながら、さらに一筆一筆重ねることで色層の重厚感とバランスの重厚感が生まれることを大切にしています。色を置く工程は、全て好きですね。

Q05. 花や蝶、鳥といったモチーフ自体は伝統的な画題ですが、取り合わせに新鮮味、RITSUKOさんのオリジナリティを感じます。取り合わせはどうやって考えていますか? 

「有機的な形をした輪郭線を借りて、色で遊ぶ」といった抽象的な考え方がベースにあります。植物などのモチーフや、鳥や昆虫など「鑑賞者の既知の姿」をもとに、動きの想像の幅を広げるような形を描くことで、その魅力を色やコントラストで引き出すことを目指しています。つまり、「形」が先にあって、そこに「モチーフ」を当てはめていくといった描き方です。

そこから発展し、実物を見た時の第一印象や色の美しさ、動きの猛々しさなど、感銘を受けた瞬間の感情を、色に乗せて描いています。自分が見ている世界に対する感情を織り交ぜることができ、私ならではの世界観や独自性を生み出しているのではないかと思っています。

「筆跡を残し、色合いが跳ねる表現を使うことで、画面の前で息づいた一瞬一瞬を形に残したいと考えています。自分が動いた軌跡を作品に残すことを意識して描いています」

Q06. 花を描く上でもっとも心がけていることは何ですか? 

花だから、動物だからという特別な描き方はせず、「輪廻転生の世界観」を強化するための象徴的な意味や背景、特別な意味合いを持たせることを心がけています。

何の花か分からなくなるほど色合いを載せることはせず、「花は花である」という形をうまく残しながら描くことを意識しています。

「金箔や和紙に日本的な文様(七宝柄、麻の葉紋様、菱形紋様など)を入れることで、パターンとしての美しさと日本の伝統を強調しています。そうすることで、それ以外の世界観(抽象表現など)との組み合わせを際立たせています」

Q07. アトリエの一番のこだわり or 自慢の作業道具など 

曽祖母が住んでいた一室を、自分と夫でアトリエに改造しました。ダイニングテーブルからアトリエを四角い窓で覗ける構造にしています。食卓にいる夫が、額縁越しに絵を見ているように、私のアトリエを見るというコンセプトで設計しました。絵の中で、絵を描くような空間が気に入っています。

さまざまな種類の岩絵具を扱うので、ダイソーさんのコショウ入れに岩絵具を入れて並べて保管しています。とても使いやすく、見た目も綺麗でお気に入りです。

Q08. 職業病だなぁと思うことは?

カフェやレストランで飾られている絵画が傾いていると非常に気になります。つい直してしまう癖があります。

ダイニングルームに綺麗に飾られたRITSUKOさんの作品

Q09. 自分自身を花に例えると何ですか?

誕生日は2月28日で、誕生花は「月桂樹」。花言葉は「勝利」で、「昨日の自分に勝ち続ける」という意味を重ねています。


Q10. ここ最近のマイブームは何ですか?

あまり画家らしくないと言われますが、ネイルをするのが好きで、特に最近は光を乱反射させるマグネットネイルやミラーネイルにはまっています。岩絵具の粒子による光の乱反射と同様に、光の反射が強く刺激的な素材が好きなのだと考えています。

Q11. 現時点での2025年ベスト展覧会は何ですか?

現時点での2025年ベスト展覧会として、長野県の軽井沢で見た「磯野宏夫展」が一番素敵でした。


Q12. もしも作家になってなかったら、今何になっていたと思いますか?

自分が「ものを作っていない状況」という想像がうまくできないですが、現在も広告代理店で社会人として働いているため、広告表現やデザインに近い業態で生きていく可能性もあったのではないかと思います。

会社の仕事はリモートが多く、アトリエのパソコンで仕事もしているという

「アーティストと会社人としての活動の融合」

新卒で広告代理店に就職し、当初は社会についていくのに必死な時期もありましたが、徐々に落ち着き、社会人と作家の二面性をうまく保てるようになってきました。様々な仕事を経験し、社会人8年目にして、自分にしかできない唯一無二の仕事を任されるようになりました。大手企業に対し、美術と企業の社会貢献性についてご説明するなど、徐々にアーティストとしての経験と企業人としての経験が活かせるような機会を頂けるようになりました。

「広告代理店の視点と企業のCSR/ESG活動」

日本では、「サブカルコンテンツ」と「純粋芸術」が、均一に扱われ、境界線が曖昧になりがちであるという課題があります。広告代理店がその一端を担う中で、私が作家ではなくコンサルタント的立場で意見をするならば、世界的に上場企業や大手企業には「企業ブランド/理念の見える化や、CSR活動、SDGs/ESG活動、地域連携活動等のための文化や芸術」が社会から要求されており、企業側からも要求に答える上で同様のニーズがあると感じています。日本でも、「美術やアートを企業アイデンティティ強化のためのブランディングツール」として活用することが当たり前になる未来が近いと感じています。今後、美術・コンサルティング業界全体が、相互に補完し合い、経済的に伸びることを期待しています。

Q13. 会社勤務をしながら制作活動する作家ならではの意外な「あるある」を教えてください。

会社に所属することで業界問わず、様々な人と交流できるメリットがあると思います。また、日本では作家や画家の立場が社会的に弱いと感じられることがある中で、会社員として働くことで社会人としての一般的な目線や考え方を理解し、社会的に俯瞰した目線でアートや自身の立ち位置を認識できる利点もあります。

一方で、作家一本で活動する人たちよりも時間が足りないため、制作時間の確保と配分に非常に敏感になりました。

「作家としての戦略とブランド構築」

作家としては「話のわかるアーティスト」という立ち位置で活動しています。社会人・経済人的目線を兼ね備えた作り手として、経済界と美術界の橋渡し役となることを目指しています。
制作時間が限られる中で、絵画表現・美しさのクオリティは、日本で抜きん出た存在を目指し、最終的には日本を代表するアーティストになりたいと考えています。
アーティストとしての戦略についても、一例として、経済的に成功された人やそれを目指す方が最終的にたどり着く成功を象徴するブランドとしての構築を目指しています。最終的に、世界中の王侯貴族や業界トップ層にも打ち出していきたいですね。

Q14. インドやアメリカで幼少期を過ごしたことで、現在のアーティスト活動に何か影響を与えているものはありますか?

インドは記憶がないほど幼少期でしたが、刺激的な国であり、独特な激しい色表現に影響を受けている可能性を感じています。アメリカでは、小学4年生から6年生まで現地校に通いました。当時は、英語がわからないために他の勉強は振るわなかったものの、絵を通じて言語を超えた交流ができた経験から、絵画が自身の重要なアイデンティティとして醸成されました。

「これは8歳の頃に描いた絵なんですけど、なかなかこの絵を超えることができなくて。今でも自分との戦いですね」

Q15. 自身の展覧会であった“ちょっといい話”を教えてください。

追悼の意を込めて描いた花の絵を見たお客様が、彼女の亡くなった母親を思い出したそうです。そして、「母が天国で花に祝われて報われた気がした」とコメントいただき、作家として絵を描いていて良かったと感じました。

まずは質問に対して、たっぷりと真摯にご回答頂きありがとうございます。特に“アーティストが有するべき経営視点”や“アーティストと会社人としての活動の融合”のお話は勉強になることばかり。あまりにも内容が濃く、一瞬ARToVILLAではなくPRESIDENT Onlineやダイヤモンドオンラインだったかと勘違いしてしまったほど。
ただ、そういった個人事業主としてビジネス視点だけで活動をしているのかと思えば、決してそうではなく。ロジックを超越したところにある感性で制作されているのは、やはりアーティストならではでした。経営者とアーティストの二刀流。それが、RITSUKOさんです。(とに〜)

Information

RITSUKO Art Exhibition
「Re:Reincarnation/巡:輪廻転生」

■会期
2025年10月29日(水)→11月11日(火)※最終日は16時閉場

■会場
大丸東京店 ART GALLERY
東京都千代田区丸の内1-9-1

■入場料
無料

大丸東京店 美術画廊、ART GALLERY1・2のHPはこちら

artist-identity_bnr

 

ARTIST

RITSUKO

アーティスト

2018年東京藝術大学美術学部 絵画科油画専攻 卒業。インド・アメリカにルーツを持ち、現在は東京/京都にて活動。2014年以降、具象的な形と抽象的な色彩を融合させた半抽象絵画を発表。2018年より東京藝術大学名誉教授 宮迫正明氏に師事し伝統的な日本画技術を学び、抽象絵画と日本画技術を組み合わせた表現方法を開発。2020年より、「半抽象絵画」「日本の伝統画材」をベースとし、主に花を対象に絵画表現に組み込んだ制作手法を編み出す。2025年、KIT虎ノ門大学院でMBA(経営管理修士)を修了。久米賞(2015)受賞、Tokyo Art Olympia (2015) 入選、Tokyo Wonder Seed (2016)入選。

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アートテラー・とに~

アートテラー

1983年生まれ。元吉本興業のお笑い芸人。 芸人活動の傍ら趣味で書き続けていたアートブログが人気となり、現在は、独自の切り口で美術の世界をわかりやすく、かつ楽しく紹介する「アートテラー」として活動。 美術館での公式トークイベントでのガイドや美術講座の講師、アートツアーの企画運営をはじめ、雑誌連載、ラジオやテレビへの出演など、幅広く活動中。 アートブログ https://ameblo.jp/artony/ 《主な著書》 『ようこそ!西洋絵画の流れがラクラク頭に入る美術館へ』(誠文堂新光社) 『名画たちのホンネ』(三笠書房) 

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