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INTERVIEW

2022.04.13

子どもの居場所を守る新生児ヒーロー《ベビテクター》って? / 「居場所のかたち」向井正一インタビュー

Interview&Text / Daisuke Watanuki
Photo / Shimpei Hanawa
Edit / Eisuke Onda

「児童虐待」「育児放棄」「ヤングケアラー」など、子どもの居場所や自由を奪う問題に大人が声を上げるにはどうすればいいのか? 
アーティスト・向井正一の回答はユニークだ。彼が生み出してきた造形作品《ベビテクター》シリーズは、新生児が特殊スーツをまといヒーローに変身、さまざまなベビー用品を駆使して、子どもの育児をサポートする――そんな姿を形に刻む。
カッコよく、愛らしく、そして優しい子どものヒーローからは、子供を守らない大人への痛烈な批判が見え隠れしてくる。
この記事では作品を紐解くため、向井正一が生まれ育ち、現在も暮らす大阪の東大阪にある徳庵でお話を聞いてきました。そこには、彼自身の「居場所」に対する葛藤とある気付きがあったのだとか。

BABYTECTOR [PRISM]

きっかけは息子へのプレゼント

取材で向井さんが持ってきてくれたのは『ベビテクター「00」プロトタイプ』。一番最初に作ったモデルだ。

――まずは向井さんが造形作家になったきっかけからお伺いできますか?

最初から造形作家になろうと思ったわけではないんです。もともとは東京にある舞台小道具の会社で働いていましたが、夫婦で大阪に戻ってから家業をついで電気関係の仕事をしていました。ただ、不景気で仕事もあまりなかったし、そもそも僕にできる仕事がなかった。悶々とした日々を過ごす中で、たまたま母校の展覧会に作品を出す機会もありました。ですが、まだ作家で食べていこうというつもりはありませんでした。

――そこから《ベビテクター》はどうやって誕生したのでしょうか。

展覧会のために使った材料や道具が、結構残っていたんです。その頃、息子が誕生したんですが、仕事はない。でも材料と時間はあった。息子が生まれた記念といったらなんですが、赤ちゃんをコンセプトとして何かつくろうと思ったのがきっかけです。息子へのプレゼントのような気持ちもありましたが、何もできていない自分に対して「何かを表現しなければ」という思いもあったと思います。

――仕事もなく家庭にいる悶々とした思いを、作品としてぶつけた背景もあったのですね。

その後はシリーズものとして何体かつくっていたため、やはり多くの人に見てほしいという気持ちが湧いてきました。そこで手始めに東京のGEISAIというアートフェアに出店したんです。当時GEISAIにはこういった造形作品は少なく、キャッチーに捉えていただけたのか、来場したみなさんの受けもよかったです。家族を連れて行ったのですがみんなで楽しめたので、来年も家族旅行を兼ねて参加したいねという話をしていたほどです。そんなときに会場で声をかけてくれたのが、大阪のギャラリー。それがきっかけで、その後いろいろなギャラリーで展示をさせていただけるようになり、今につながる道が拓けました。

2014年1月に大阪のArt de Art Viewで開催された個展での一コマ。当時6歳の向井さんの息子正眞くん。

――そもそも造形の仕事自体は東京時代にもされていたんですよね。その時のお話もお伺いできますか?

東京では仮面ライダーや戦隊シリーズなどの作品のコスチュームを制作していました。そこで僕は怪人をつくるチームにいて、10年以上も怪人のコスチュームをつくっていました。怪人って一週間で最低一体は必ず死ぬんですよね。だから一週間で一体は必ずつくらないといけない。でも、怪人のデザインを作る人も忙しいから、正面しかないデザイン画を渡されて(笑)。それを見ながら、背面は想像して仕上げるんです。作品を生み出す想像力はそのときに培われたのかもしれないですね。

 

悪い赤ちゃんなんていない

――《ベビテクター》は「育児をサポートするヒーロー」ですよね。今まで悪役をつくっていた向井さんが、今ではヒーローをつくっているというのはおもしろいです。

別に怪人をつくるのが嫌で、その反動でヒーローをつくりたかったというわけではないんですけどね(笑)。というのも、当時は「悪役」をつくっているという意識すらなかったからです。自分のした仕事がかたちになることは単純にうれしかったですし、誇りを持っていました。だから、これまでの経歴は関係なくて、《ベビテクター》は赤ちゃんなので、ヒーローにしたかったんです。

――赤ちゃんは生まれながらのヒーローである、ということですね。

息子が生まれた時に思ったんですよ。この子は「最強」だなと。なぜかというと、この子の代わりに死ねる人間が最低でも6人(父、母、祖父母)いるから。それって最強じゃないですか? 周囲の人気を集める最強の勇者。赤ちゃんってそういう存在なんですよね。だから、ヒーローだなと。

へその緒のような管の先にベッドメリーを搭載した『ベビテクター「04」メリー』。生まれて間もない正眞くんをあやす。

――世の中には「生まれながらにして人間の本質は善である」という性善説と、「本質は悪である」という性悪説、2つの考え方があると思います。赤ちゃんがヒーローというのは、性善説の考え方でもあるのでしょうか。

悪い赤ちゃんなんていないと思います。それよりも問題は、周りの大人達ですよね。赤ちゃんが泣いている時に、めちゃめちゃ機嫌が悪くなる人っているじゃないですか。反対に、微笑ましく笑いかけられる人もいる。僕はむしろ大人の方にこそ善悪のまなざしを向けたいです。

ーーたしかに、問題は大人にあるのかもしれません。《ベビテクター》という作品の「子どもが子どもをケアする」という設定からは、大人たちが子どもを守る存在になれていない現実を突きつけているように感じます。

息子がまだ小さいときは、育児放棄や幼児虐待といったニュースをちょっと見ただけで耐えられなくなり、よくテレビを消していました。ベランダから新学期にピカピカの一年生が大きなランドセルで通学をしている姿を見るだけでうるっときてしまうんですよ、僕。

――「はじめてのおつかい」を見て、うるっとくる感じに近いんですかね?(笑)

そうそう(笑)。もともと子ども好きではあるんですが、子どもたちがつらい思いをするをするのを想像するだけでつらくなります。

Wrapper

3歳の正眞くんと『ベビーベッド・ガーディアンズ』(写真左)とぬいぐるみが好きだった8歳の正眞くんをモチーフにした『Wrapper』。(写真右)

――現代の児童虐待の背景には、貧困や孤立などの社会的構造の問題もありますよね。

僕もいい人間ではないので、ちょっと踏み外したら虐待する側の人間になっていたかもしれないと常々思うんです。今も金銭的にはギリギリな生活を送っていますから。でも、息子とパートナーぐらいは幸せにできたらいいなとは思っています。《ベビテクター》は子どもが子どもをサポートする存在ですが、たまにこれは自分を投影しているのかなと感じることがあります。僕自身、しっかり子どもを守る存在でいたい。だからこそ作品を通して社会問題に対する僕の思いも主張していきたいと思っています。

――向井さんが携わっていた戦隊モノの世界では、ヒーロー=善で、怪人=悪という勧善懲悪が基本ですよね。向井さん自身は善悪をどのように判断していますか。

僕自身が虐待してしまう可能性があるという思いがあることを考えれば、善悪は表裏一体だという意識を持っているのだと思います。でも、子どもを取り巻く環境においては、常に正義が正しいという世界をつくってあげたい。だからこそ、僕にとっての一番善に近いヒーロー像は《ベビテクター》なのかなと思います。

BABYTECTOR [JET PACK CAMO]

 

家族は「おもろい」

家族の話をすると表情がほころぶ向井さん。「パートナーもおもろいし、息子もおもろい。僕にとってはかけがえのない存在なんです」。

――ヤングケアラーの問題もそうですが、子どもが誰かをケアするという状態は、本来はなくてよいこと。大人のサポートが当たり前にある状態が正しい社会なのだと思います。向井さん自身は息子さんとどう関わってきましたか?

当時は仕事がなかったので、お風呂やおしめ替え、保育園の送り迎えなどをちょこちょこ担当していました。もちろんパートナーがしていたことに比べたら足元にも及びません。ただ、作品をつくるときはやはり子どものことを考えるんですよ。作品に向き合う時間も子どもを思う時間だったと今では思います。

当時4歳の正眞くんをモデルにベビテクターを作った時の一コマ(写真左)。向井さんが制作作業を始めると、興味津々に覗きにくる当時5歳の正眞くん(写真右)。

――息子さんは今中学生ということですが、子どもの成長によって作品に変化はありましたか?

マンガやゲームや映画などを一緒に観ながら、息子が「ここのカラーリングがかっこいい」など参考になるアドバイスをくれるんです。それが作品に影響していることはありますね。

――出来上がった作品に息子さんの意向が含まれているのですね。向井さんにとって家族とはどういう存在なんでしょうか。

やはり居場所ですね。僕にやる気を起こさせてくれた息子と、理解してくれるパートナーがいてくれるから今があるし、感謝しています。家族というと、「温かい」「安らぎ」のようなイメージが多くの人にはあると思いますが、僕にとってそこは「おもろい」場所なんです。最近は息子が反抗期で生意気なんですけど、そんなところもおもしろいなと思います。さっきまで怒っていたのに、今は一緒にゲームの話をしているという状況とか。

今年開催された「アートフェスティバル 2022」での一コマ。13歳になって大人っぽくなってきた正眞くん。「最近は一緒にPS4のゲームをしています。作品を見にきたらパパにしては意外に頑張ってるなと言ってくるんですよ」と向井さん。

――何があっても楽しめる場所になっているんですね。

本当に家族ありきです。だからこそ、もしパートナーと息子が去ってしまったら、もう作品をつくることはないと思います。

――その居場所を維持する上で、向井さんはどんな役割を果たしていると思いますか?

ちょっとパートナーに聞いてきますね。(確認後)どうやら僕は家族の中で「なだめ役」らしいです。家庭を円滑にする役割ですね。いいことを言われてよかったです(笑)。パートナーが息子の将来をよく気にかけてくれているなかで、僕は本当に一緒に遊んでいるだけかもしれない。でも、いつまでも息子と一緒に遊んでいられるような、そんな親父でありたいと思っています。

――もし息子さんが《ベビテクター》をつくりたいと言い出したらどうしますか?

絶対に止めさせます(笑)。稼げないし!

※4月20日(水)から大丸京都店で開催する「ART@DAIMARU」にて展示する作品に関しては、全作品抽選販売となります。

抽選お申込み期間
4月20日(水)〜25日(月)20時まで
作品ページよりお申込みください。

information

ART@DAIMARU
大丸京都店 6F イベントホール
4月14日(木)〜4月25日(月)
※4月18日(月)・4月25日(月)は17時閉場、4月19日(火)は終日閉場

向井正一作品については後期のみの出展となります。
4月20日(水)〜25日(月)
※4月25日(月)17時閉場

ARTIST

向井正一

1972年大阪出身。近畿大学文芸学部芸術学科造形美術専攻卒業後、テレビ・映画等の怪人・怪獣コスチュームや、舞台小道具などの制作に携わる。退社後、息子の誕生を期に作家活動を始める。

volume 02

居場所のかたち

「居場所」はどんなかたちをしているのでしょうか。
世の中は多様になり、さまざまな場がつくられ、人やものごとの新たな繋がりかたや出会いかたが生まれています。時にアートもまた、場を生み出し、関係をつくり、繋ぐ役目を担っています。
今回のテーマではアートを軸にさまざまな観点から「居場所」を紐解いていきます。ARToVILLAも皆様にとって新たな発見や、考え方のきっかけになることを願って。

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