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INTERVIEW
2024.02.16
ゲームさんぽ・いいだと装丁家・川名潤が、遊びながら「風景」について考えてみた。
Edit / Eisuke Onda
Photo / Shin Hamada
ゲームの中へ、ふらっと散歩にでかけたことはあるだろうか?
仕事終わり(あるいは休日)、もしくは移動時間のスマホでもいい。現実とは少しはなれた場所に接続することで、あたらしい「風景」との向き合い方を発見できるかもしれない。
ゲーム自体のクオリティも上がっており、現実との違いがもはや分からないものや、アート作品と言っても遜色のないほど世界観を美しく構築した作品もある。
また、ゲームをアート作品として表現する「ゲームアート」も盛り上がっている流れもあり、いまゲームについて知ることは、アート鑑賞の手がかりにもなるかもしれない。
今回はゲームの中の風景の魅力を人気YouTubeチャンネル「ゲームさんぽ」のいいださんと、数多くの書籍、雑誌のブックデザインを担当する装丁家の川名潤さんに語ってもらった。
ゲームの風景を語る人
いいだ(ゲームさんぽ)
編集者。美術教科書の出版社で務めた後、専門家が独自の視点でゲームの世界を語るYouTubeの人気ゲーム実況シリーズ「ゲームさんぽ」をなむさんと運営している。『ゼルダの伝説』を石原良純がプレイした回が話題に。専門家と対話するというアイデアは美術における「対話式鑑賞」から着想を得た。
川名潤
さまざまな書籍、雑誌などのブックデザインを手掛ける装丁家。いいださんとは『ゲームさんぽ 専門家と歩くゲームの世界』(白夜書房)のブックデザインを担当したことをきっかけに交流がはじまる。今回はいいださんからの推薦があり登場してもらった。
ゲーム内に生活を作っていく楽しみ方
───今回、「風景」をテーマにゲームの対談を実施するにあたり、いいださんから最初に名前が挙がったのが川名さんでした。
いいだ:「ゲームさんぽ」の書籍を作るときに、川名さんにこれまでチャンネルで取り上げてきたゲームの話をしたら、半分以上やったことがあるとおっしゃっていて。当時は『Fallout 76』(2018年)(*1)をやり込んでいましたよね?
*1……核戦争後の荒廃した世界を探索するロールプレイングゲームの8作目。今作は2102年のウェストバージニア州が舞台。自由度の高いゲームシステムで「治安の悪い『あつ森』です」(川名)とのこと。
『ゲームさんぽ 専門家と歩くゲームの世界』(白夜書房)
川名:そうですね。でもあの……、仕事相手にはばれたくなくて(笑)。締め切りが遅れたとき、「ゲームばっかやって」って思われるに違いないから。
いいだ:ああ(笑)。『Fallout 76』のゲーム内に本屋を作っていた話が記憶に残っていて、今回のテーマとも合うんじゃないかと思ったんです。
───本屋ですか?
川名:自分の拠点を作って、そこに他のプレイヤーも遊びに来ることができるシステムがあるんです。拠点に販売機を置いてアイテムを売ることもできる。武器や回復薬を扱う人もいるんですが、僕はヴィレッジヴァンガードみたいな本と人形のお店にしていて。ゲーム中で拾える本は全種類揃えていました。まあ自己満足なんですけど。
いいだ:たまに売れるんですよね。
川名:売れますね。全種類買ってくれる人もいるくらい。敵を倒したり攻略していくよりは、生活を作っていくような楽しみ方をしていることが僕は多いかもしれないですね。
───いいださんのゲームとの付き合い方についても教えてください。
いいだ:中学校くらいまでは当時流行っていたものをやっていたんですが、高校に入るくらいでゲーム自体を辞めてしまったんです。あらためてゲームを触り出したのはなむさんの「ゲームさんぽ」を観てからで。
川名:あ、そのタイミングなんだ。
いいだ:ブランクがあるんです。だから、今でもゲーマーっていう自認はないですね。社会人になって忙しくなると、学生のときよりも映画や本から遠ざかっていくじゃないですか。ゲームもそれに近くて、もちろん楽しいんですけどついていくべきものという感じがどこかにありますね。
川名:まずいな。記事上で自分だけがゲーマーになってしまう!
近未来の宇宙を回遊するゲームの中の余白
おすすめのゲームを解説する川名さん
───ここからはお二人に選んでもらった風景にまつわるゲームをやりながら話していきましょう。川名さんが選んだ『Starfield』は2023年9月に発売したばかりですが、すでに世界的な話題作ですね。宇宙に広がる1000以上の天体を自由に探検しながら謎を解いたりアイテムを収集していくオープンワールドゲーム(*2)です。
*2……プレイヤーがフィールドを制限なく自由に探索できるゲーム。ステージの移行などがないため、スムーズで没入感が強いのが特徴。『Grand Theft Auto』シリーズや『ゼルダの伝説 ティアーズ オブ ザ キングダム』など。
川名:発売日に買って、実はもう14回クリアしています。1周するごとに残る能力があって、それを積み重ねていくような、周回することが目的化してるゲームなんですよ。(宇宙空間のマップを開く)表示されているすべての星に行くことができるんですが、太陽系もあるのでまずは地球に行ってみましょうか。
いいだ:ロンドンがある。ロンドン行きましょう!
川名:(着陸して外に出る)時代設定が2330年で、地球は砂漠になってなにもないんです。ロンドンもザ・シャードの廃墟があるだけで。別の星にも行ってみますね。
いいだ:今度の星は、普通に初夏の気持ちいい山登りみたいな雰囲気ですね。
川名:こうやって知らない生態系ができている星には、知らない動物がいるわけです。(群れに威嚇される)あ、好戦的な動物だ。
いいだ:ゲームの中に鳥の声とか風の音があると自然環境を感じますけど、『Starfield』は不穏なBGMのほうが強くて安らぐ感じがあんまりないですね。
───川名さんがこの作品を選んだのはどういった理由からでしょう。
川名:『Starfield』には不思議な懐かしさがあるんです。風景としては非常に作り込まれているんだけど、天体間の移動がファストトラベルで、点を選んでそこに行くという記号的なかたちになっていて。それって僕が子供のときにプレイしていたゲームの感覚と近いんです。
最近のゲームは特にそうですけど、ゲームエンジンの物理演算が現実に近くなって「用意された場所」という感じがするんです。リアルになるほど見えるものもあるんですが、それは見えているものがすべてでもある。最近では食事からトイレまで組み込まれたゲームもあって、むしろそういうリアルさは世界を限定していくような感覚がありました。『Starfield』もオープンワールドゲームですが、宇宙を移動しているとき、主人公がなにをしていたかはわからないんですよね。そういった余白があるんです。
───子供のころのゲームについて聞きたいです。
川名:8ビットのころ(*3)から僕は遊んでいて、当時面白かったのは『ウィザードリィ』(*4)とかなんです。3Dのダンジョンを探検するんですけど、それはワイヤーフレームで作られているだけの必要最低限のもので、風景ではないんです。モンスターのビジュアルはありますが、たとえば宿屋に入っても「宿屋に入って回復した」っていう一文が表示されるだけ。それですべて終わるわけです。実はそのときのほうが豊かだったんじゃないか、みたいなことも思っていて。
*3……任天堂のファミリーコンピュータ、NECのPCエンジン、セガのセガ・マークIII8ビットなど、8ビットのCPUを搭載したゲーム機で遊べるゲームのこと。
*4……3Dダンジョンロールプレイングゲームのシリーズ。1981年に第1作が発売され『ドラゴンクエスト』や『ファイナルファンタジー』などといったRPGにも大きな影響を与える。文中の通り、主観視点でダンジョン探索するシステムが特徴。
いいだ:ゲーム体験として。
川名:そうです。たとえば、線だけでしか描かれていない洞窟に対して、「壁から水がしたたってるかも」「ネズミの死骸があるのかも」みたいに無限に想像を広げていくんです。見えていないものを想像で補いながら、頭の中で遊ぶみたいな感じで。
いいだ:自分の頭の中でめっちゃ演算して「描画」していたんですね。
───たしかに初期の『ドラクエ』シリーズなど、ゲーム内では名前しかわからない装備品の見た目を、攻略本のイラストを見てはじめて知るみたいなことがありましたよね。
川名:あのときって攻略本がものすごい楽しかったんですよ。今でも覚えているのは、『ドラクエ』の2回攻撃ができる「はやぶさの剣」。形がすごい気になって「柄はひとつなんだけど剣が2本あるのかな?」とか授業中にノートに落書きしてたんです。攻略本を見たら全然違っていてショックでした(笑)。
いいだ:そうした解釈違いが持つ可能性のようなものは、ゲーム外で生まれるようになっているのかもしれないですね。ゲームのプレイの中ではなく、外。たとえばわりとリアルな感じのロンドンが舞台になっている『Watch Dogs: Legion』(2020年)をYouTubeの収録の準備もあって全エリアをじっくり歩いてみたんです。そのあとで実際に初めてロンドンに行ったら「ぜんぜん違うじゃん!」となって。
川名:オープンワールドゲームだと現実にある場所を作ろうとすることも多いですよね。「ゲームさんぽ」のなかで研究者の方が『アサシン クリード オリジンズ』(2017年)を解説していて、実際のエジプトとは違うと話していたんですけど、僕はゲームの中でしかエジプトに行ったことがないから……。
いいだ:現実と違うと言われても、本当の意味での納得はしないですよね(笑)。「そんなこと言われたって、(自分にとっては)あれがエジプトなんだけどな……」というのが残り続ける。
───そこで感じる現実っぽさの理由ってどんなところにあるんですかね。
川名:ゲームをやっていると手触りがあるじゃないですか。この壁を登った、この家にあるツボを探ったとか。
いいだ:その感覚が現実に寄ってきたりするのかもしれませんね。
川名:だから、現実のエジプトに行っても「絶対にあの壁登れるな」みたいな視点で見ると思いますね。
いいだ:あそこからこう行けばあっちに渡れるな、みたいな(笑)。
現実とシームレスに繋がる窓のようなもの
───単なるグラフィックのリアルさとも異なる、触感的なリアリティがあると。
川名:手触りということでいうと、『Starfield』を作っているベセスダのゲームって、作品中のなんでもないものまでかなり触れることができるんですよ。それを拾って自分の拠点に好きに並べたりとか、プレイヤー側で編集して本編とぜんぜん違う楽しみ方をする余地がある。
いいだ:このゲームでも拠点を作り込んでるんですか?
川名:まだこれからなんですが僕の拠点に行ってみましょう。景観を気にして湖沿いに作りました。
いいだ:ガラス張りのサンルーム付ですね!
川名:中には割とレアな服をマネキンに着せて並べています。事務所と同じように植物のプランターを吊り掛けたり。
川名さんの事務所にあるグリーン
いいだ:これが今から仕上がっていくんですね。想像なんですけど、川名さん、こういう画面を流し見しながら仕事してませんか?
川名:ははは! そうなんです。ゲームを開いておいて、もう片方のモニターで入稿作業してます。昔からそうなんですよ。たとえばMMO(*5)なら追尾システムとかを使って友達のレベル上げに自動でついていくようにして、それを確認しながら……。
*5……Massively Multiplayer Onlineの略。同じサーバーに複数のユーザーがログインして,同じ空間でプレイするオンラインゲーム。
いいだ:おこぼれにあずかっている(笑)。そういう使い方って「窓」っぽいなとたまに思うんです。よくカフェで仕事をするんですが、窓の外で人が行き交うのを見ながらだと仕事がはかどったりしないですか。
川名:うんうん。そういう感じかもしれない。
いいだ:自分以外のものが動いていると、世界が動いているんだということが実感できる。だから自分も頑張れるみたいな。だとしたらゲームを開いてないっていうのは、カーテンを閉め切っているってこと(笑)。むしろ開いておくほうが自然な気すらしてきますよね。
───窓の外なんだけど、この拠点と今取材している仕事場に共通性もあるのが面白いですね。
川名:そうですね。だから、不思議とこの事務所とゲームの拠点はシームレスなんです。多分これからMod(拡張機能)で一般のユーザーが作った家具も増えていくと思います。
いいだ:先ほど話していた体験の豊かさという点で考えると、川名さん的にはどうなんですか。この情報量が格段に増えた最近のゲームは。
川名:どうなんでしょう。豊かさとは別の楽しみ方をしている気がします。『Starfield』では湖のほとりに自分の部屋があるし、『Fallout76』ならアメリカの鉄道のトンネル下に本屋があるし、みたいな拡張現実的なものになっているんだと思いますね。
ぼんやりと風景を眺める『風ノ旅ビト』
続いて飯田さんが解説
───続いてはいいださんセレクトの『風ノ旅ビト』(2012年/*6)をプレイしていきましょう。このゲームをセレクトされた理由は。
*6……2012年発売のアドベンチャーゲーム。インディー作品ながら数々のゲームアワードを獲得し、サウンドトラックがグラミー賞にノミネートされるなどゲーム体験、作品性ともに高い評価を得る。精神的続編として2019年に発売された『Sky 星を紡ぐ子どもたち』はスミソニアン美術館の常設コレクションに認定。
いいだ:シンプルに、ゲーム中に見た光景のなかで一番きれいで感動した作品がこれなんですよ。(プレイをはじめる)
川名:これも砂漠のゲームですね。砂の作り方がすごいリアルだ。
いいだ:粒子を感じますよね。これがオープニングなんですが、言葉はない。なにをすればいいかもわからないけど、とりあえず砂丘の上で布がはためいているので、そこへ行ってみます。
川名:全然なんの説明もないなあ。……あ、タイトルが出た。
いいだ:ここから言葉はずっとゼロというゲームです。◯ボタンを押すと声が出せるんですが(ボタンに合わせて「ぽわっ」と音がする)これがなんだかはわからない。だけど、一応ゲーム内の布のような生き物とコミュニケーションは取れているようだと。大勢いるところに呼びかけると、ふわっと高く登れるんだな……とかそういうことをじわじわ理解していく感じです。
PlayStation®4用ソフトウェア『風ノ旅ビト』/ ©2012, 2015 Sony Interactive Entertainment America LLC. Developed by thatgamecompany.
川名:最後まで自分が操作するこの人が何者かはわからないんですか。
いいだ:わからないですね。いろんな解釈はあると思いますが、明示はされないです。「雰囲気ゲー」というんですかね、なぜか気持ちよくてやってしまうようなタイプかもしれません。アートに引き付けると、この風景は平山郁夫が描いていたシルクロードの絵画の雰囲気なんかともつながっているように感じます。今村紫紅の《熱国之巻》(重文)とかも。
【重要文化財】今村紫紅《熱国之巻》(部分)/出典:ColBase (https://colbase.nich.go.jp)
───たしかに、広大な砂漠や古びた遺跡をゆるやかに旅していくような雰囲気がありますね。最初にプレイしたときのことを覚えていますか?
いいだ:すごいきれいだなって思いながら、ただぼんやりと風景を観ている時間が長かった気がします。砂の質感とか風の感じとか光の入り方とかを含めた「場所」と言いたくなるような雰囲気のよさがあるんです。「空間」ではあっさりしすぎているというか。
チュートリアルでは教えてもらえない機能なんですけど、オプションボタンで座ることができるんです。別に座ったからってなにもないんですけど、風景を見るには大事だなと。座るからこそゆっくり時間を過ごせるんだと思うんです。場所にいる感覚を味わうためのモードがあるのが面白い。
ゲームの中での移動はコントローラーを傾けるなど操作も簡単
川名:たしかに攻略を目的としないゲームも増えてきた気がします。
いいだ:たとえば2022年に発売された『Stray』という猫を操作するゲームにも寝るコマンドがありました。屋上みたいなところで寝ると、主人公の猫の背後からだんだんカメラが上空の方に引いていって、街の屋根並みを俯瞰する風景になっていく。もう猫はどこにいるかわからないんだけど、一方でこの街であの猫が寝ているんだなぁ、という実感がすごく湧いてくるんです。
───ちゃんと立ち止まるための操作があることで、よりゲームの風景や場所が感じられやすくなっているんですね。
いいだ:長めの休みに旅行へ行くことがあるんですよ。最初はよくわからないけど歩いたり、地下鉄に乗ってみたりする。それがだんだんバスとかが使えるようになってくると「この街のことを知ってるな」という気分になる。『Starfield』で言うとすぐに別の星にぱぱっとカーソル合わせて移動できるようになる、みたいな。
川名:攻略の仕方が分かってくる、と。
いいだ:その速さの違いが大事だなという気がしていて。風景の見え方って、立ち止まるとか走るとか、移動のモードによって違うと思うんです。『風ノ旅ビト』でも最初は歩くだけなんですけど、ジャンプできるようになったり、飛行したり、高速な移動ができるようになっていく。そうすると知らない土地が一気に自分のフィールドに感じられる。すごく抽象化されてはいるんですが、旅の経験=知らない土地に身体を馴染ませていくことの喜びみたいなものがゲーム化されていることに驚きました。旅と同じような気持ちを、シンプルに美しく体験できるゲームがあるんだってことはゲームにあんまり興味がない人にも知ってほしいですね。操作も簡単だし。
これからのゲームと風景について
───これまでゲームの風景について話してきましたが、少し視点を広げてアートや創作の分野と接続していくとしたらどうでしょうか。
いいだ:風景に絡む話だと、ちょうど去年の「さいたま国際芸術祭2023」(現代アートチーム 目[mé]がディレクション)はかなり面白かったですね。会場内外の至るところに「作品」とは別の、謎の人やモノが仕込まれている不思議な展示で、だんだん全てのモノが不自然に思えてきてやたら不安になるという......。会場を出たあとの帰り道でも目に映るあらゆるモノに対して「これは仕込みじゃないか」という疑いを持つようになってしまって、いい意味で気持ち悪い、新鮮な風景の楽しみ方ができました(笑)。あとメイン会場の造り方は完全にゲームのマップを意識してる気がしましたね。会場のフロア全体が透明の壁で無駄に複雑に仕切られていて「あそこに見えているあれを見に行きたいんだけど、どこからどういけばいいんだろう?」と考えさせられる展示構成になっていて。「宝箱があそこに見えてるんだけど......!」というゲーマーなら確実にわかるあの感覚が何度も味わえてそれも楽しかったです。
───川名さんは、装丁家の仕事とつながる部分はありますか。
川名:本を作るという仕事にゲームと近いところをすごく感じています。テキストという作家が書いた確固たる世界に「こうだったらいいな」というものを付け足していくのが装丁なんですね。自分はまず、文章でしか書かれていない風景や情景の一部を再現することからはじめることが多いんです。たとえば『ハロー・ワールド』の書影は収録されている5つの小説それぞれのシーンを抜き取ったものを自分で作って構成したり。装丁はゲームにおけるModなんじゃないかってたまに思うんですよね。
藤井太洋『ハロー・ワールド』(講談社)
───少し強引かもしれませんが、ゲームも本もプレイヤーや読者の関与を求めるものなのかなと。
川名:本はめくるという能動的な作業がないと進んでいかないんですよね。手触りのあるものだから、ゲームのUIを作るということとも似ているのかもしれない。たとえば装丁をする上で、内容を質感に反映するということもやるんですが、このスペイン作家のホラー小説(エルビラ・ナバロ『兎の島』)は手触りを一番意識した本かもしれないです。とにかく気持ち悪い話しか載っていないから、本をヌメッとした感触にしようと。
エルビラ・ナバロ『兎の島』(国書刊行会)
いいだ:これどういう素材なんですか?
川名:ベルベットPPっていう人肌に近い質感のものを使っています。
いいだ:いやあ、ほんとだ。皮膚っぽくて、心なしか生あたたかい。
───あらためて、これからのゲームと風景の関係はどうなっていくと思いますか。
いいだ:川名さんがおっしゃっていた、ゲームが持つ「場所感」というのをもっとポジティブに評価できるようにならないかなと個人的には思ってるんですよね。ゲームの空間のなかに自分が生きている感じになれるあの感じを。
川名:それって人に話すと、たいてい軽く引かれちゃうんだよね(笑)。
いいだ:しかたないですけどね(笑)。でもそれをゲーマーではない人にもわかるような別の言葉に置き換えられないのかなって。
川名:僕は今のゲームを現実の延長線だと考えていて。『World of Warcraf』(*7)というMMOを長く遊んでいたころ、一番一緒に遊んでいたプレイヤーがいたんです。一人でボスに突っ込んでいくような無茶なタイプの(笑)。もうこのゲームで遊ぶのを止めるというときに「今日ここで終わりにするわ」ってお別れをしたんです。そのとき、あるお城の中の橋の上にいて、ちょうどそこに夕方の光が差していたのを今でも覚えています。そこで感じているドラマチックさって、現実の夕方に味わっているものと地続きな気がするんですよ。それはゲームの風景ではあるんだけど、ランドスケープではなくてシーンに近いというか。
*7……2004年から現在まで続くMMORPG。世界最大のアクティブプレイヤー数を誇り、累計すると1億人以上のプレイヤーが遊んでいる。「10年以上遊んでいたということで記念品が送られてきたことがあります」(川名)。
いいだ:視覚的にどうこうって話ではなくパーソナルな体験としての風景。
───ゲームではあるけど、そこで感じた感情や風景にはリアリティがあるってことなんでしょうね。だからこそ覚えている。
いいだ:川名さんの言う地続き感はすごくよくわかるし、だとしたら実はリアルとバーチャルというのはまったく対義語じゃないんだなと思いますね。昔は別世界のものと認識していたかもしれないけど、今は敢えてわける意味がどんどん薄くなってきている。
川名:仮想現実の先に自分と同じような個人がいるわけですから、それはまぎれもなく現実だなと。
いいだ:今、バーチャルという言葉は半分くらい死語なのかもしれないですね。
DOORS
いいだ(ゲームさんぽ)
編集者
1989年生まれ。株式会社よそ見の代表。美術科教科書の編集者を経て、さまざまな分野の専門家と一緒にゲーム実況をする動画企画「ゲームさんぽ」をライブドアニュースのYouTubeチャンネルでシリーズ化。現在は別の会社に勤務しつつ、株式会社よそ見としてゲームさんぽの動画制作を継続している。
DOORS
川名潤
装丁家
1976年、千葉県生まれ。インフォバーン、prigraphics inc.を経て、2017年に川名潤装丁事務所を設立。多数の書籍装丁、文芸誌『群像』(講談社)など雑誌のエディトリアル・デザインを手がける。最近の装丁に中村文則『列』(講談社)、佐藤究『幽玄F』(河出書房新社)、大田ステファニー歓人『みどりいせき』(集英社)などがある。
volume 07
交差する風景
わたしたちは、今どんな風景を見ているでしょうか?
部屋のなか、近所の道、インターネット、映画やゲーム、旅先の風景……。
風景、とひとことでと言っても
わたしたちが見ている風景は、一人ひとり異なります。
そしてその風景には、自然と都市、アナログとデジタル、
過去と未来、現実と虚構……などの
一見異なる概念が混ざり、重なり合って存在しています。
この特集では、さまざまな人たちの視点を借りて、
わたしたちが見ている「風景」には
どんな多様さが含まれているのかを紐解いていきます。
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