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INTERVIEW

2024.02.02

コラージュアーティスト・Q-TAが影響を受けた80年代のサブカルチャー / 好きな風景の話。#3

Interview&Text / Keisuke Honda
Edit / Eisuke Onda
Photo / Kaoru Mochida

わたしたちが見ている「風景」にはどんな多様さが含まれているのかーーインタビュー企画「好きな風景の話」では、さまざまな人に風景にまつわる話をうかがう。

今回登場するのはコラージュアーティストのQ-TAさん。アートディレクションやグラフィックデザインを通じて得た経験と知識をもとに、アナログ/デジタルの両方を駆使したコラージュワークで新たな風景を浮かばせる。

映画に音楽、アニメやゲーム、漫画ーー作業場をぐるりと囲むフィギュアやポスターの数々は彼が愛するカルチャーであり、彼が見てきた「風景」そのもの。過去と現代を縦横無尽に切り貼りしていく、その背景とは。

ディープな世界を、できるだけポップに。

作業場の階段。手に持つのは大好きな漫画『キン肉マン』の登場キャラクター、エリート超人のロビンマスク

ーーまずはアーティスト活動のきっかけを教えてください。

2011年頃からインスタグラム(*1)をはじめたんですが、そこになにをアップしようかと考えたときに、コラージュ的な作品を思いついたのがきっかけです。当時は主にファッション系のアートディレクションを仕事にしていて、ビジュアル制作の過程で雑誌などを切り貼りしたラフを作る作業が多かったというのも背景にあります。インスタグラムに作品をアップしたらフォロワーが一気に増えたので、せっかくだから続けてみようという感じで今に至ります。

*1…….インスタグラムのリリースは2010年。その後、2014年2月に日本語版公式インスタグラムアカウントが開設された。

コラージュをはじめた頃の作品

ーーアーティストになりたかったというよりは、それまでの活動が作家業へとつながったわけですね。

そうですね。学生の頃から好きなことを自由にやってきただけで、それが大人になったタイミングで「あれ?これってもうアーティストじゃね?」って気がついちゃった感じです(笑)。

ーーQ-TAさんのコラージュ手法はアナログとデジタル、どちらも使われているとお聞きしましたがなぜですか?

昔は古い雑誌を切り貼りしながら作品を作っていたんですけど、今はアナログよりデジタルが多いかな。でも意識的には「THE デジタル」ではなく、アナログなのかデジタルなのか、どちらかわからないような作品にしたいと思っていて。デジタルでわざとアナログのラフな雰囲気を演出したりもすれば、その逆のアプローチのときもあります。アナログ特有のディープな世界観は人の心を惹きつける要素である一方、それがいき過ぎると観る側との距離が遠のいてしまう気もするんです。だから、幅広い人に気にしてもらえる存在を意識しだしたというところが発端にあったと思います。

最近のコラージュ作品の数々

ーー現在、作品作りにおいて心がけていることは?

作品によって振り幅はありますが、なるべく少ない手数でシンプルな存在を作りたくて。すごく極端に言えば、AとBという2つの素材を合わせただけで完成、みたいなもの。ただその単純な合わせ方のなかにある種のポップさや、空間に作品が馴染みすぎない塩梅など、いかに自分らしいグルーヴ感を残せるかを意識しています。

 

YMOとの出会いが、今の自分を形成している

Q-TAさんの作業部屋。音楽、映画、アニメ、ゲーム、さまざまなサブカルチャーに溢れている

ーーそのバランス感がQ-TAさんらしさの鍵を握っているような気がします。ご自身の作風に影響を与えた存在や体験など、「風景」についてのお話もお聞かせいただけますか? といっても、この作業場からすでにさまざまな情報が......(笑)。

ははっ(笑)。そうですね......本当にいろんなところから影響を受けているのですが、そのなかでも自分に多大な影響を与えた存在となるとやっぱり「YMO(イエロー・マジック・オーケストラ)」との出会いは大きかったですね。小学1、2年生の頃にはじめて聴いたんですが、音数が少なくて説明的ではない無機質な電子音に子供ながらに魅力を覚えたんだと思います。ミニマルな構成だからこそ脳内で別の要素を補完しながら楽しむ、という体験が僕の軸になっています。

ーーQ-TAさんのプロフィールにある「シュルレアリスムを独自の解釈で表現する」というのも非常に興味深いです。

実はそれもYMOからの流れで、KRAFTWERKを聴いたり(ジャン=リュック・)ゴダールや(スタンリー・)キューブリックなどの映画を観たり、あとモンティ・パイソン。学生時代はこういった無機質でロジカルでシニカルなものに惹かれました。そうして自分にとってのシュルレアリスムというのは様々なカルチャーを通して独自の解釈に変わっていきます(笑)。

YMOのデビューアルバム『YELLOW MAGIC ORCHESTRA』はQ-TAさんにとってお気に入りのうちの1枚

作業場に置かれた「ベアブリック」もYMO仕様!

ーーこの作業場にはさまざまな風景が360度にわたってあふれているわけですが、なかでも特に記憶に残っているものについてぜひお聞きしたいです。

子供の頃からアニメ好き!というのはもちろんなのですが、どちらかというとテレビの「アニメ」より劇場の「アニメーション」に魅力を感じていて、1983年に劇場公開された『幻魔大戦』は自分を構成している要素の一つと言っても過言じゃない作品ですね。この作品はキャラクターデザインが大友克洋さん、音楽はシンセサイザー奏者の草分け的存在のキース・エマーソンが担当していて、映像と音楽のマッチングに背筋がゾクゾクとして、子供ながらいても立ってもいられなくなりました。あと『王立宇宙軍 オネアミスの翼』(1987年)。岡田斗司夫さんがGAINAX(ガイナックス)を創業してバンダイから出した最初のアニメで庵野秀明さんなども携わっているんですが、なによりも坂本龍一さんが音楽を担当しているんです。当時、中学生の僕はめちゃくちゃテンション上がったんですけど、周りにこの作品のすごさを伝えてもまったく伝わりませんでした......。まぁたしかに人を選ぶ地味な作品ではあるので......。そして決定的だったのが翌年公開された『AKIRA』。この作品でもう戻って来られなくなりました(笑)。

『幻魔大戦』の劇場公開時に使われていたキャンペーン用ポスターを大切に保管

石ノ森章太郎原作『人造人間キカイダー』のレプリカマスク。電飾によって頭や目が発光する

あとは怪獣映画、特撮ヒーローですね。漫画も全方向の作品をチェックします。でも一番好きなのは『キン肉マン』(笑)。ジャッキー・チェンに憧れて体を鍛えていたし、って挙げだしたら本当にキリがないのでこのあたりで(笑)。

ーージャッキー・チェンに憧れていた話まではまったくの予想外でしたが、お話を聞く限りでは「その道」を行くのがもはや必然かのようなオタクっぷりですね!

アニメとジャッキー・チェンは、僕の中でヒーロー願望という面で実はリンクしているんですよ。小学生の頃に映画館で『プロジェクトA』(1983年)を観てから、スタントマンになりたいと思ったほどです。当時、近所の公園に仲間を集めて見よう見まねでカンフーを教えたりしていたもんだから、「師匠」ってあだ名まで付いていました(笑)。もちろん戦隊ヒーローのスーツアクターとかにも憧れはありましたが、背の順だといつも前の方にいた自分には無理かなと気づいてしまって早々に断念しました。

──アクション俳優ではなくスタントマンに憧れたというのがまた面白い(笑)。裏方業への興味がかなり早い段階からあったようですね。

そうかもしれません。インターネットなんてまだない時代でしたから、とにかく気になるアニメや漫画、映画の情報は本を読んで片っぱしからインプットしていきました。特にアニメは、完成するまでのラフ絵や細かい情報が載っている設定資料本が好きで、雑誌などに比べると値段は高かったんですが買って読んでいましたね。そうこうしているうちに、先ほどのヒーロー願望からアニメを作る側への興味が徐々に高まっていって。

「電子楽器やノイズ音のするおもちゃが大好きなんですよ」とQ-TAさん。デスク周りにはミキサーをはじめ、アーティストのKaseo氏による作品「ピカルミン」や知育玩具「Speak & Math」を改造したものまで

デザイン系の専門を卒業後の初就職で選んだのがゲーム会社のキャラクターデザインの仕事で、20歳半ばくらいまで続けました。そのあとは広告系のアートディレクション業をやりながら、週末はクラブでDJをしたり、映像を作ってVJをしたり。たぶん昔も今も変わらないのは、当時のサブカルチャーと呼ばれる存在だったりそのデザインへの興味なんだと思います。

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好きな物事のプレゼンテーション。
それが僕にとってのコラージュ

ーーこれまでに感じ取ってきた空気感や培ってきたさまざまな要素が、Q-TAさんの作品を通じて観る側にとって楽しくて新鮮な風景に変換されていくんですね。

好みは人それぞれにあって、全員が僕と同じカルチャーを通ってきているわけはないし、ましてや好きなわけでもありません。アニメは観ないけど音楽が好きな人もいれば、漫画は読まないけどファッションが好きな人もいますよね。そういった人に対して、どうしたら面白さがより伝わるか考えたくなるのが僕の性格的な一面であり、コラージュという手法でもあります。いわば、「これとこれを一緒に食べるともっとおいしいよ」と、食事の感想を伝えているのと同じようなこと。だから僕自身としてはアートをしているって感覚があまりないんだろうなと思います。

「当時はまだ子どもで買うことができなかった」というソニーの初代ウォークマン。今見てもカッコイイ

僕が多くの刺激を得た80~90年代初頭は、世の中的にも「ファミコン」や「ウォークマン」の誕生など、ライフスタイルが一気に変わるような出来事が急に起きた時代でもあって。懐古主義のつもりは一切ないですが、当時に受けたセンセーショナルさに比べるとどうしても今の時代は調和しすぎというか、洗練されすぎていて物足りなさを感じてしまう部分があるんですよね。

Q-TAさんが手掛けたアートワーク。写真左はヘアケアブランド・Promilleの新商品「Promille oil smoky choco」、右は美容メーカー・NAKAGAWAのホームヘアカラー「WAcolor堂」のビジュアル

だからせめて僕が関わるものくらいは、自分の内側にあるものを混ぜ合わせることで新たな色を生み出し、風景から突出する存在でありたいと思います。混ぜない美しさは知っているけど、白いものがたくさんある中にさらに白いものを作る意味もないので。その視点の重要性は愛が深い分、人一倍感じるのかもしれません。

ーーアーティストだけではなく「アートディレクター」や「グラフィックデザイナー」などの面をお持ちのQ-TAさんだからこそより強く感じる喜びと葛藤、そのどちらもあるのだと思います。今後の展望についてはどのようなことをお考えですか?

結局のところ、コラージュ作品でもデザインやアートディレクション業でも共通しているのは「思わず二度見してしまうような面白さ」に尽きるんだと思います。そのために、自分の思考に対して“逆に”だったり、“あえて”のアプローチについてよく考えます。今はそれができていることが楽しいし、なにかを感じ取ってくれる人がいることがとても嬉しいので、これからも追求していきたいですね。

DOORS

Q-TA

アートディレクター / デザイナー / コラージュアーティスト

シュルレアリスムを独自の解釈で表現するファッション性の高いポップなコラージュ&ビジュアル作品で、GUCCI、Viktor & Rolfなど世界的に有名なファッションブランドとのコラボレーションやディズニー映画「Alice Through the Looking Glass」とのコラボビジュアル、ボジョレ・ヌーヴォー公式ビジュアル、DYNAMITE BOATRACEポスター、2019年ラグビーW杯でのadidasコラボ、コスメブランドKATEの「カメレオンパレード」のビジュアル、商品パッケージデザインなど様々な広告媒体に作品を提供。また音楽や書籍のジャケットや装画のビジュアルも多く、Vaundyのシングル「Tokimeki」のジャケット、東野圭吾「沈黙のパレード」の装画など手掛ける。その他、CM、雑誌、ロゴ、パッケージ、空間デザイン、企業ブランディングなど枠に囚われず国内外で幅広く活躍する。

volume 07

交差する風景

わたしたちは、今どんな風景を見ているでしょうか?
部屋のなか、近所の道、インターネット、映画やゲーム、旅先の風景……。
風景、とひとことでと言っても
わたしたちが見ている風景は、一人ひとり異なります。
そしてその風景には、自然と都市、アナログとデジタル、
過去と未来、現実と虚構……などの
一見異なる概念が混ざり、重なり合って存在しています。

この特集では、さまざまな人たちの視点を借りて、
わたしたちが見ている「風景」には
どんな多様さが含まれているのかを紐解いていきます。

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