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INTERVIEW

2022.10.07

「ストーリーを感じる場所に、アートを置いてみよう」 / 遠山正道(経営者)がアートを観たら、そのつぎは?

Text / Fumika Ogura
Photo / Shiori Ikeno
Edit / Eisuke Onda

アートを観た。作品に心を奪われた。じゃあ、そのつぎは......どうしよう。
なかなか一歩踏み出せないかもしれないけど、勇気をふり絞ってギャラリーにいるアーティストに声をかけても良い。その絵が自分にとって掛け替えのないものだと感じるのであれば、購入し共に暮らしてみるのも良いかも。

そんな悩める人たちへ、アートをコレクションする先輩たちからのアドバイスを求めた。アートを好きになったきかっけは? どんなアートを購入した? 誰がおすすめ? なぜ買うの? どこに飾る? どうやって飾ってる? 

第一回目に登場するのはスマイルズ代表取締役社長の遠山正道さん。自身もアーティストであり、さまざまなアーティストと交流を重ね作品を収集。アートに囲まれた生活を送る遠山さんに5W1Hの質問を投げかけた。

ESSAY

ESSAY

アートで自分自身を見つめることで社会と繋がる / 遠山正道(経営者)

  • #遠山正道 #特集

WHEN
アートを好きになったきっかけは?

「原体験は《日傘を差す女》です」

今回の取材は遠山さんが経営するアートのプラットフォームを展開する会社「The Chain Museum」のオフィスで収録

芸術系の仕事をしている親戚が多く、幼い頃から美術が身近にある環境で育ちました。アートを意識するようになったのは、小学6年生の頃。家族で行ったパリ旅行で、モネの《日傘を差す女》を見て、当時抱えていた気持ちと絵がリンクして感動したのを覚えています。これが最初に感じたアートの原体験です。

 

WHAT
どんなアートを購入している?

「自身のストーリーをアートに紡ぐことで人生の道標となる。そんな作品です」

アートについて語りだしたら話と笑顔が止まない遠山さん。はじめてアートを手にしたのは1992年、30歳の頃......

自覚的に初めてアートを購入したのは、菅井汲氏の版画です。青い円と黒い円が組み合わさったグラフィカルな作品です。30歳で結婚をした際に、新居に飾ろうと代官山のアートフロントギャラリーで手に入れました。1950年代からパリで作家活動をしていた菅井氏は、もともとは象形文字のような形態を描いていて、全く違う作風だったのですが、私が産まれた60年代の初頭にこのようなタッチへと路線変更をしたんです。後付けの話ではありますが、私自身も新たなスタート地点に立つタイミングで購入をしたので、勝手に縁を感じています。アートには正解がない分、自身のストーリーやタイミングを重ねて、自分なりに解釈をしていいと思うんです。ひとつの作品から小さなエピソードを紡いでいくことで、アートも自分自身も育っていくと思うんですよね。

1970年代の後半、結婚を機に購入した菅井汲の版画(左)。他にも菅井の制作したタブローもご自宅には飾っている(右)

 

WHO
誰の作品がおすすめ?

「最近は保良雄を応援しています」

保良雄《This ground is still alive》[2022] / Photo by Taichi Saito

たくさん居るので選び難いですが、最近購入したのは、保良雄の《This ground is still alive》の写真作品です。これは、石巻で行われていた「Reborn-Art Festival 2021-22」に出展していた、復興祈念公園周辺にある空き地を、自らの手で耕し、植物を育てるインスタレーション。さすがに畑そのものを購入することはできませんが、作品を撮影した写真を納品してもらう予定です。保良雄は、フランスと日本を拠点に活動しているアーティストですが、もともとは私が経営している「パス ザ バトン」で働いてくれていて知り合いました。勤めていたときも、働きながら作家さんの助手をするなど、アート志望でした。会社を辞めてからは藝大の大学院へ行き、その後パリの美大へ。それからは本格的にアーティストとしての活動をスタートし、昨年開催した「ATAMI ART GRANT」での展示や東京で個展を開催するなど、精力的に活動しているそう。今後も応援していきたいし、ぜひ注目してもらいたいアーティストの一人ですね。

 

WHY
なぜアートを購入するのか?

「アートはアーティストとの関係をつなぐチケットだから」

The Chain Museumのオフィスに飾られた上田茜音《fluctuation #02》。「この間のGEISAIでたまたま見かけて買わせてもらったんですよ」(遠山さん)

私にとってアート作品を買うことは、作家とのストーリーや関係性を繋いでいくチケットのようなもの。アーティストが生きてきたこれまでの人生や、考え方、取り組んでいることに、共感を示すひとつの手段です。最近は特に若いアーティストのものを購入することが多いのですが、自分の足で探さないとなかなか出会えない。作品へ辿り着くまでの時間も含めて楽しいんですよね。

 

WHERE
どこに絵を飾っている?

「家やオフィスだけでなく新たなプロジェクトも始動しました」

SPEEDA、NewsPicksなどのサービスを提供する会社「Uzabase」に展示されたサカイケイタ《LINE08》

主に自宅やオフィスに飾っていますが、スペースが限られていることもあり、ほとんどが倉庫に眠っています。作品を展示する場所の話でいうと、The Chain Museumで最近は新しい取り組みをスタートさせました。可動性と稼働性を掛けた「KADOWSAN」というプロジェクトなのですが、アート、グリーン、家具を貸し出して、空間を作り上げるというサブスプリクションサービスです。アーティストから作品をお借りして、企業のオフィスなどに貸し出して展示しています。まだ大々的にはスタートしていませんが、先日「Uzabase」の新しいオフィスに、サカイケイタさんの《LINE08》という作品を納品しました。この「LINE」シリーズは、数年前からサカイさんが取り組んでいるもので、サインをモチーフに錯覚を利用した認識の曖昧さや、視覚における秩序性を表現しています。このアートが新たなスペースに飾られることで、作品を見た人に対してなにか可能性を生むことができたら嬉しいです。このような取り組みをスタートし、アーティストも作品を展示する機会が増え、様々なエピソードが積み重なっていくのが楽しみでもありますね。

The Chain Museumのオフィスで飾られているTom Sachs《Copies set》

オフィスには約10点の作品が置かれている。写真左は安井鷹之介《chained》、右は田村琢郎《Melted soft seve》

 

HOW
どうやって絵を飾る?

「ストーリーを感じられる場所にアートを置きます」

The Chain Museumの休憩スペースでは原田匠悟《Untitled》が飾られていた

どこに飾るのかにもストーリーがあることを大切にしています。たとえば、オフィスの給湯スペースにある絵。社員が休むところでもあるので、ゆっくり会話を生み出せるように、ちょっと絵本っぽいタッチのものを置いたりして、その作品に対する自分なりの物語が語れるようにしています。アートはきっかけ作りのようなもの。ひとつの作品をフックに社員同士はもちろんのこと、来社してくれたお客さんの縁を繋いでいけるものになれたらと思っています。

 

 

infomation

ARToVILLA MARKET

 

ARToVILLA-Market_web-banner

ARToVILLA主催、現代アートのエキジビション兼実験店舗「ARToVILLA MARKET」を開催いたします。
遠山さんが推薦するアーティストも出展予定です。

■会期
2022年11月11日(金)〜11月13日(日)

■会場
FabCafe Tokyo, Loftwork COOOP10
〒150-0043
東京都渋谷区道玄坂1丁目22−7道玄坂ピア1F&10F
神泉駅から徒歩5分、渋谷駅から徒歩10分
Google map

■入場料
無料

詳しくはこちら

DOORS

遠山正道

経営者

スマイルズ代表取締役社長。商社勤務を経て、スープストックトーキョーを立ち上げる。その後、ネクタイ専門店「giraffe」やニューサイクルコモンズ「PASS THE BATON」などさまざまな事業を展開。近年は、小さくてユニークなミュージアム「The Chain Museum」、アーティストを支援できるプラットフォーム「Art Sticker」などをスタート。

volume 04

アートを観たら、そのつぎは

アートを観るのが好き。
気になる作家がいる。
画集を眺めていると心が落ち着く。

どうしてアートが好きですか?
どんなふうに楽しんでいますか?

観る、きく、触れる、感じる、考える。
紹介する、つくる、買う、一緒に暮らす。

アートの楽しみ方は、人の数だけ豊かに存在しています。
だからこそ、アートが好きな一人ひとりに
「アートとの出会い」や「どんなふうに楽しんでいるのか」を
あらためて聞いてみたいと思います。

誰かにとってのアートの楽しみ方が、他の誰かに手渡される。
アートを楽しむための選択肢が、もっと広く、深く、身近になる。

そんなことを願いながら、アートを観るのが好きなあなたと一緒に
その先の楽しみ方を見つけるための特集です。

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