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REPORT

2022.07.25

異分野コラボによるSF作品完成/作家・田丸雅智ショートショート作品を公開!

2022年5月3日(火)に開催されたYouTube LIVEイベント「ショートショートで創造するSF建築と物語」。
イベントでは、アーティストの田島治樹さんとショートショート作家の田丸雅智さんが、誰でもショートショートを作れるメソッドに沿って、創作作品のテーマ「光っている 隕石 駅」を考案しました!こちらを元に制作した田島さんの新作版画と、田丸さんの新作物語を公開いたします。田島さんのアート作品は販売を開始いたします。

イベント中は田丸さんが考案した、誰でも短くて不思議な物語を作ることができる「ショートショートを作れるメソッド」に沿って、田島さんと共にさまざまな言葉のカードを組み合わせて作品タイトルを作成。視聴者のコメントも交えながら、タイトルを元にSFの世界を妄想しました。

イベントの様子はこちらのyoutubeから。コメントも多数いただき盛り上がりました。

光っている隕石駅

ショート・ショート作家・田丸雅智さんの完成作品

『メテオトレイン』 / 田丸雅智

 水星からの帰り道、おれは窓から外を眺めた。
 夜よりも暗い宇宙空間では、無数の星々がまたたくことなく輝いている。その景色は通勤で見慣れたものだけれど、見飽きることなど決してない。ましてや、こんな飲み会の帰りの日には酔いも手伝い気分が増して、星々はいっそう美しく見える。
 父親のことが不意によみがえってきたのは、そのときだった。
 いまは第一線を退いて火星で悠々自適の生活を送っている父親は、かつては自分と同じバリバリの商社パーソンだった。朝早くに地球にある家を出て、メテオトレインで木星の衛星にある会社に向かう。そうして遅くまで働いて、深夜に家に帰ってくる。そんな生活をつづけていた。
 メテオトレイン──それは、惑星間を定期的に行き来している宇宙船の名称だ。隕石にたくさんの小窓がついたような見た目をしていて、光に近い速度で惑星間を一気に駆け抜けることができる。人々はそれに乗りこみ各惑星のステーション間を移動して、軌道エレベーターで地表に降り立ちおのおの仕事に励んだりする。水星で地下資源の採掘事業にかかわっている自分のように。木星で飲料水の流通事業にかかわっていた父親のように。
 小さい頃、夜になるとおれは家のベランダから望遠鏡をよくのぞいていたものだったなぁと思いだす。
 メテオトレインを眺めるためだ。
 地球付近のステーションには、頻繁にメテオトレインがやってきては去っていた。その車窓からは灯りがこぼれ、宇宙空間に淡い黄色を投げかける。望遠鏡を目いっぱいまで拡大すると、灯りの中で黒い人影が時おり揺らめく。
 あの影のどれかが、お父さんなのかなぁ……。
 宇宙を見上げ、そんなことをぼんやり思う。
 早く帰ってこないかなぁ……。
 そうこうするうちに徐々に眠気が押し寄せてきて、おれはベッドにもぐりこむ。部屋に映した3Dプラネタリウムの人工的な光に包まれ、夢の中へと溶けていく──。

 ハッと目を覚ましたのは、とつぜん声をかけられてのことだった。
「お客様」
 正面には車掌がひとり立っていた。慌てて周囲を見回すも、たくさんいた乗客は誰もいなくなっていた。
 どうやらやってしまったらしい、とおれは悟る。思い出にふけっているうちに、うっかり眠ってしまったのだ。
「あの、ここは……?」
 尋ねると、車掌は言った。
「海王星です」
 焦って窓から外を見やると、そこにはメテオトレインの終点──青く輝く氷の惑星がたたずんでいた。
 恐る恐る、車掌に尋ねる。
「あの、次の出発はいつですか……?」
 海王星からの便は本数が少ないことで知られている。
 嫌な予感がよぎるなか、それは見事に当たってしまう。
「あいにく、12時間後となっています」
 車掌の言葉に呆然とする。
 それだと明日の仕事に間に合わない……!
 おれはしばし逡巡したのち、メテオトレインを飛びだしてステーションの外に出た。
 目的のものは、幸いすぐに見つかった。
 多大な出費のことを思うと、ためらう気持ちも強くあった。が、こうなった以上はやむを得ないと覚悟を決める。
 そして、急いで地球に帰るため──。
 おれは泣く泣く、メテオタクシーに乗りこんだ。

田丸さんからのコメント

最初にお題を見たとき、個人的には難しそうだなぁという印象を受けました。ですが、「隕石を利用した宇宙ステーションがあったら?」という田島さんのお言葉を伺った瞬間、一気に想像が広がって、宇宙空間を走る隕石の形をした列車のイメージが浮かんできました。本作の執筆にあたってはそこからさらに想像を膨らませ、隕石型の列車が走る未来においても今と変わらない何かがあればいいなと考え、作品に仕上げました。自分だけでは絶対に生まれなかった作品であり、田島さんや坂木さん、コメントをくださったみなさんに感謝です。

 

光っている隕石駅

イベント参加者のショート・ショート作品を公開

イベントに参加された方から同じ「光っている 隕石 駅」のお題で作品を執筆いただきました。
その中から二作品を公開いたします!

ペンネーム:田原にか

「地球行はどちらですか?」 「それなら5番線かな、あっちの階段を上がって」 僕は5番線のホームへ向かおうとした。しかし彼女は階段の途中で足を止めた。 「ねえ、トイレ行くから待ってて」 「5分以内でお願いね」 まだ彼女を待つ時間はある。 僕はこの日のために努力をしてきた。毎日のトレーニングで肉体改造をして直径は5キロを超えた。隕石にしては珍しく衛星まで飛んでいる。だから僕は決して大気圏なんかで燃え尽きたりなんかしない。 戻ってきた彼女と共に、僕は駅のホームに降り立った。 「まもなく5番線、地球行参ります」 時間が来ると宇宙風が到達する。それに飛び込み、僕達隕石はそれぞれの目的地に向かって飛んでいくのだ。ホームでは地球行の隕石達が各々の準備をしながら待っている。僕も準備をしようと乗風口の線に並ぼうとしたら、突然彼女が僕の衛星を握った。 「ねえ、お願い。いかないで」 彼女の涙が、キラリと光った。 「地球に降り立つのが、僕の夢なんだ」 「わかってる、わかってるけど。離れ離れになるの、嫌だよ」 彼女は悲しみで震えていた。彼女の表面は震えのせいでひび割れて始めていた。このままでは彼女は崩壊してしまう。 「わかった。じゃあ一緒に行こう」 僕は自分の表面に大きな亀裂を発生させ、彼女を僕の中心部に取り込んだ。そして大きな一つの隕石になると、ホームに流れてきた宇宙風に飛び乗った。 大丈夫、僕が守る。絶対に地球の大気圏なんかには指一本触らせない。 宇宙風はあっという間に僕らを運んでいく。ちらりと駅を振り返ると、隕石駅は頑張れと応援しているかのように光っていた。僕らは徐々に光の帯を纏いながら、行ってきますと呟いた。 地球まで、あと1ヶ月。

 

ペンネーム:竹井 龍

さびれた街のとある駅。一人の少女には、母親との大切な思い出が。だが、この駅も廃線計画がもちあがり、来年にも消えそうになっていた。 少女は、夜になると、空にあらわれる流れ星に願いを託した。 一方そのころ、隕石は流れ星に憧れて、天の川でキラキラのかがやきを、からだに取り付けて、派手はでな隕石に変身していた。 ある日、少女の願いを聞いた流れ星は、友達の隕石に少女の願いの話をした。 隕石はそれならと、自分がその駅に行ってみようと、流れ星の話をきいて思った。 キラキラの隕石が、さびれたとある駅にくると、たちまちネットでも話題になり、インスタグラムでも有名に、そのおかげもあって、駅も電車も残されることになった。 少女の願いは叶い、その駅は隕石駅と人から呼ばれるようになりました。

 

 

アーティスト・田島治樹さんの完成作品

今回田丸さんと一緒にコラボしたアーティスト・田島さんの新作版画はこちらです!

『光っている隕石駅』 / 田島治樹

田島さんからのコメント

今回、田丸さんと一緒に作品のテーマを決めさせていただいて、自分では想像つかないテーマとなりました。ですので、そのままタイトル通りになる作品を制作してみようと思いました。
自身では考えつかない「光っている隕石駅」というタイトルに合わせ、私なりにアイデアを練って制作する過程はとても刺激的で面白い体験となりました。
自分1人では想像出来なかった作品に仕上がったのではないかと思います。
作品の具体的なイメージとしては、未来世界で、未知の鉱物でできた隕石と、そこのクレーターに発生した磁場のエネルギーを利用して建設された宇宙ステーション(=駅)への地球からの発着口をイメージして描きました。

 

REPORT

田島治樹さんの『光っている隕石駅』の制作過程はこちらからチェック!

田島治樹さんの『光っている隕石駅』の制作過程はこちらからチェック!

REPORT

異分野コラボによるSF作品完成/アーティスト・田島治樹作品が販売開始!

  • #田丸雅智

作品詳細

■作品概要

『光っている隕石駅』
ed.20
サイズ:53 × 53cm
税込198,000円 

■販売方法

2022年7月25日(月)〜:アールグロリューにて店頭先行販売
Artglorieux GALLERY OF TOKYO
住所:東京都中央区銀座六丁目10番1号 GINZA SIX 5F
GINZA SIX 1Fウィンドウ(銀座ライオン側、交詢社通り)にて商品パネルを展示しております。是非御覧ください。

2022年8月4日(木)〜:ARToVILLA  WEBサイトにてEC販売開始
※部数に限りがございますので、売り切れの場合はご容赦くださいませ。

■店頭販売に関するお問い合わせはこちら
https://artglorieux.jp/

DOORS

田丸雅智

ショートショート作家

1987年、愛媛県生まれ。東京大学工学部、同大学院工学系研究科卒。現代ショートショートの旗手として執筆活動に加え、坊っちゃん文学賞などにおいて審査員長を務める。また、全国各地で創作講座を開催するなど幅広く活動している。ショートショートの書き方講座の内容は、2020年度から小学4年生の国語教科書(教育出版)に採用。2021年度からは中学1年生の国語教科書(教育出版)に小説作品が掲載。著書に『海色の壜』『おとぎカンパニー』など多数。メディア出演に情熱大陸、SWITCHインタビュー達人達など多数。 田丸雅智 公式サイト:http://masatomotamaru.com/

ARTIST

田島治樹

アーティスト

1︎988年 埼玉県生まれ。東北芸術工科大学 大学院 芸術文化洋画 領域修了。 「バベルの塔」に象徴されるように数多くの作品(小説・映画・マンガ)に登場する建造物、構造物が現代社会を映すように、それらを表象することで警鐘またはその可能性を探っている。制作技法としては古くからある絵の具を用いて手で描く手法と、現代ならではの3DCG技術を用いたハイブリッドな技法を用いて現代から新たな未来への融合を試みている。

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