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- 1992年生まれの二人が、ルーマニアと韓国の滞在を語る。スクリプカリウ落合安奈×前田エマ / 「季節のひとめぐりをかの土地で生きる」トークイベントレポート
REPORT
2024.04.12
1992年生まれの二人が、ルーマニアと韓国の滞在を語る。スクリプカリウ落合安奈×前田エマ / 「季節のひとめぐりをかの土地で生きる」トークイベントレポート
Photo / Yoko Kusano
Edit / Yume Nomura(me and you)
美術家のスクリプカリウ落合安奈さんが、もうひとつの祖国ルーマニアで撮影した祖国の手ざわりと季節のうつろい。1年間にわたって撮影した10,500枚あまりのカットからセレクトした写真作品を収めた特製フォトボックス『ひかりのうつわ』の刊行記念展が、現在OFS GALLERYで開催されています(〜4月14日(日))。
そんな安奈さんと同じ1992年生まれであり、およそ季節のひとめぐりを韓国という異なる土地で暮らしたモデルで文筆家の前田エマさんをゲストに、トークイベントも行われました。「その土地に根差した文化」や「ルーツ」に関心を寄せて活動を行う二人が、ルーマニアと韓国の滞在を通して見たものなどを語りあいました。
日本とルーマニア、二つの母国に根を下ろす方法を模索するなかで、「土地と人の結びつき」というテーマを持つようになったスクリプカリウ落合安奈さん。これまでも国内外のさまざまな土地でフィールドワークを行い、そこで得た気づきをもとにインスタレーション、写真、映像、絵画などで多彩に表現してきました。
前田エマさんが、安奈さんの作品を初めて見たのは、六本木ANB Tokyoでの展覧会だったといいます。安奈さんの作品に自分の深層的な部分を重ねながら観たといい、「けっして軽くはないテーマでありながら、作品は気持ちよく観ることができる魅力にあふれていて、展示空間全体も独特の風通しの良さがありました」と振り返りました。
左から前田エマさん、スクリプカリウ落合安奈さん
安奈さんは、直近1年間は自身のもう一つのルーツであるルーマニアで滞在制作を実施。ルーマニアは、1989年に市民たちによるルーマニア革命が起きて独裁政権が倒れ、そこから社会の仕組みが大きく変わっていった国。地理的にはウクライナの隣国で、安奈さんが滞在を開始したのは、2022年2月のウクライナ侵攻から約10ヶ月後の12月でした。
右は、トークイベントのMCを担当した野村由芽さん(me and you)
現在31歳の安奈さんにとって、自身の成長とルーマニアの激しい変化は並行して起こっており、「幼少期に行ったときのルーマニア、成人して初めて自分の意思で渡ったルーマニア、そして2022年から滞在したルーマニアでは、同じ国でもまったく国の顔つきが違う」とのこと。変化が激しい祖国の手ざわりを得るのは非常に難しく、安奈さんが常に肌身離さずフィルムカメラを持ち歩き、同地の祭りや儀式、風習、この土地での生き方を教えてくれた親のような人々など、そこにしかない風景を撮り納めたのが、現在展示されている「ひかりのうつわ」です。
その日々を、安奈さんは「カメラが体の一部というよりも体がカメラの一部くらいになっていた」と回想し、帰国して2ヶ月以上が経つ今の心境について、「一年かけてやっと捕まえることができた祖国の手ざわりが、どんどんとこぼれ落ちていく感覚があってすごく怖い。でも写真作品として形に残せたことで、展示のたびに少しそのときに戻れるような気がします」と打ち明けました。
10,500枚あまりのカットからセレクトしたという写真は、人々の帰属意識や共同体のあり方など、その土地の歴史と哲学を感じさせるものばかり。光が空気に滲んでいくようなフィルムの美しい質感から、新鮮さと懐かしさが同居するような安奈さんの眼差しも感じられる作品になっています。
冬・春・夏の3つのボックスごとに21枚ずつの写真(うち1枚はプラチナプリント仕上げ)が納められた特製フォトボックス「ひかりのうつわ」を展示販売
前田エマさんが韓国留学中に現地で触れたアートやカルチャーについてのエッセイはこちら
エマさんもまた、およそ季節のひとめぐりを韓国・ソウルという異なる土地で暮らした一人。『愛の不時着』では南北分断がモチーフになり、また人気アイドルグループのBTSが楽曲を通じて、1980年に韓国光州市で多くの犠牲者を出した民主化運動「光州事件(5.18民主化運動)」に触れるなど、第4次韓流ブームのなかで、韓国の社会問題や歴史に関心を強めていったといいます。
また当初は3ヶ月だったという滞在予定を大幅に延長した理由について、エマさんはこう話しました。「私が韓国に到着した次の日が、独立記念日の“3.1節”でした。“3.1節”は、1919年3月1日に日本の植民地支配に抵抗した朝鮮の市民たちが行った独立運動をたたえる祝日のこと。日本で暮らしているときは、独立記念日の存在自体を知りませんでした。ほかにも、日本で言う終戦記念日は韓国では光復節といい、日本からの解放を記念する日です。韓国のほとんどの記念日や祝日が日本と無関係ではないこと、そして日韓での認識のずれへの気づきをきっかけに、自分の目で韓国の1年を見たいと思ったんです」
大学時代はオーストリアのウィーンに留学していたというエマさん。横浜から渋谷に出かけるくらいの感覚で隣の国に行けること、そしてヨーロッパではごく当たり前に自国だけではなくヨーロッパ全体の政治について話し合われていたことに驚いたといいます。「ウィーンでは、隣国との国境をあまり感じない地続きな感覚を知ると同時に、日本の島国という地理性が私たちの日常や価値観、政治にどのような影響を及ぼしてきたかを考えさせられました」
スクリプカリウ落合安奈さんのロングインタビューも必読
安奈さんも、「たった1つ、自分の視点や常識だけである事象を見ることは危険ですし、特に美術家である私の場合は、自分の視点が偏った状態でつくった美術作品を、いろんな方に見ていただくことは避けたいと思っています」とエマさんの言葉に共感しており、終始二人の共通項が浮かび上がってくるようなトークイベントとなりました。
安奈さんがルーマニアの手織りの布や手刺繍の服を見せる時間も。身近なアイテムから、異なる文化を知り始めるということも、二人の共通した関心事でした
行く先々で異なる文化に出会い、世界中に知人友人が増えていくことで、自分の価値観という鉄を叩き、拡張させることができるーーさまざまな土地を知ることの重要性を、異なる土地で暮らした二人の言葉、そして安奈さんの今回の展示からきっと感じられるのではないでしょうか。
Information
スクリプカリウ落合安奈 刊行記念展「ひかりのうつわ」supported by ARToVILLA
■会期
3月29日(金) ~4月14日(日)
営業時間:12:00~20:00(最終日は18:00まで)
休廊日:火曜日、水曜日
※トークイベント開催のため3月30日(土)は17:30閉店となります。トークイベント参加のお客様以外の入場はできませんので、ご了承ください
■場所
OFS GALLERY(OFS.TOKYO内)
東京都世田谷区池尻3丁目7番3号
スクリプカリウ落合安奈×前田エマ トークイベント
「季節のひとめぐりをかの土地で生きる」 ※すでに終了
同じ1992年生まれであり、およそ季節のひとめぐりを異なる土地で暮らした経験をもつ前田エマをゲストに、トークイベントを開催します。「土地に根差した文化」や「ルーツ」に関心を寄せて活動する二人に、ルーマニアと韓国の滞在を通して見たものや、日本との文化との違いなどを語っていただきます。
出展作家:スクリプカリウ落合安奈
ゲスト:前田エマ
開催日時 3月30日(土)18:30~19:30
会場 OFS GALLERY (OFS.TOKYO内)
料金 無料
定員 30名(事前予約制)
イベント詳細はこちら
ARTIST
スクリプカリウ落合安奈
美術家
1992年埼玉県生まれ。東京藝術大学油画専攻を首席、美術学部総代で卒業。同大学大学院グローバルアートプラクティス専攻修了。同大学大学院彫刻専攻博士課程に在籍。埼玉県立近代美術館(2020)、ルーマニア国立現代美術館(2020)、東京都美術館(2019)、世界遺産のフランスのシャンボール城(2018)やベトナムのホイアン(2019)など世界各地で作品を発表。主な受賞歴は、ARTnews Japan「30 ARTISTS U35 2022」、「TERRADA ART AWARD 2021」 鷲田めるろ賞、「Forbes Japan 30 UNDER 30 」2020、「Y.A.C. RESULTS 2020」SWITCHLAB / ルーマニアなど。令和4年度公益財団法人ポーラ美術振興財団在外研修員としてルーマニアで活動。 Photo © Kotetsu Nakazato
DOORS
前田エマ
アーティスト/モデル/文筆家
モデル。1992年神奈川県生まれ。東京造形大学を卒業。オーストリア ウィーン芸術アカデミーの留学経験を持ち、在学中から、モデル、エッセイ、写真、ペインティング、ラジオパーソナリティなど幅広く活動。アート、映画、本にまつわるエッセイを雑誌やWEBで寄稿している。2022年、初の小説集『動物になる日』(ミシマ社)を上梓。
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