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- 仮想と現実の往還。 / アーティスト・藤倉麻子が描く新たな風景
INTERVIEW
2023.10.12
仮想と現実の往還。 / アーティスト・藤倉麻子が描く新たな風景
ARToVILLAでは2023年10月27日(金)から30日(月)まで京都にて、エキシビション/アートフェア「ARToVILLA MARKET」を開催。キュレーター・山峰潤也氏による「Paradoxical Landscape」というテーマのもと、7人の作家アーティストの作品の展示・販売を行います。
Paradoxical Landscapeを直訳すれば、「矛盾した風景」。自然と都市、アナログとデジタル、過去と未来、現実と虚構……などの一見異なる概念が混ざり、重なり合って存在する現在的な風景のユニークさと、そんな風景への新しい感性のまなざしを探るための特集「交差する風景」にも通じます。今回は、出展作家の方々に共通の質問をし、風景と作品についてのインタビューを行いました。
出展作家のひとりである藤倉麻子は、CGを用いた映像インスタレーション作品を多く手がけ、現実の風景と架空の風景を重ねる手法で鑑賞者を新しい体験へと誘います。工場地帯や砂漠、楽園を彷彿とさせる独自の風景を編み出す彼女に、“風景”を通じた原体験について聞きました。
# あなたの原風景は?
「規則的につくられる高速道路やショッピングモール、倉庫、密集した住宅、田畑──生まれ育った郊外都市の風景です」
《朝の楽しみ方》(2020)映像
私は、東京まで電車で40分ほどのところにある埼玉県の郊外で生まれ育ちました。東京に繋がる駅の周りに住宅が密集し、そこから5分車を走らせれば山や畑が広がり、近くには規則的に高速道路や倉庫が並んでいる──先が見えないような、でもなにか一つの法則で繋がっているような、巨大なインフラの構造図が原風景となっています。
第二の原風景は「楽園」です。
いろいろな美意識について考える中で、特にイスラム文化圏をはじめとする中東の乾燥地帯の風景や建築に関心を持つようになりました。中東地域では、砂漠や岩石砂漠にある都市に、礼拝堂のモスクなどの幾何学的・装飾的な建物も建っています。その地域の思想や言語を学ぶことが、そういった風景への理解に繋がるのではないかと思い、大学ではペルシア語を専攻しました。
Water Street from Asako Fujikura on Vimeo.
ペルシア文化の中で一番気になったのは、「庭園」を意味する"bagh(バーグ)"という概念でした。現代では、民家に付属する庭や、人が集まってピクニックしたり食事したりする囲われた空間をbaghと呼ぶこともあるようです。
そういった風景への関心から、架空の土地における開削や建設をシミュレーションするつもりで3DCGソフトを使い始め、今もbagh的・楽園的な要素を模し、乾燥地帯では貴重な水や植物の表現に力を入れて制作を続けています。現実では扱いきれないサイズや重量の物体も、無限に広がるCG空間では自由自在ですし、自分で太陽も設定できるので、建物に光が当たって影が落ちるのを見るたびに感動し驚いています。
# 風景とはどのようなもの?
「死に向かう一直線の時間軸ではない、別の時間軸から新しい風景を編み出したい」
風景が発生するためには必ず風景を捉える私がいるので、作品をつくるときは風景を捉える主体について想像しています。人以外にも自然物や工業製品は、どのように時間や自分を取り囲む環境、風景を経験するのか。主体との関係性による風景の始まりについて、作品を通じて考えてきました。
肉体的に考えると、風景の終わりは主体の死と一緒に訪れますが、時間は死に向かって一直線上に進むという前提のもとではなく、“風景を捉える主体が、風景をどのように時間に接続していくのか”ということに興味があります。たとえば人が造園したり、広場や公園をつくったりする際に実現(達成)しようとしているのは、一直線の時間軸とは別のところに、点のように存在する時間からいまここにダイレクトに繋げる風景なのではないでしょうか。そういった風景が発生する背景に迫りたいと思っています。
「手前の崖のバンプール」展より、参加者が乗っているウォータータクシーと船舶(2022年5月28日、29日) 撮影=太田琢人
自分の原風景である郊外の風景は、物流や労働、ロジスティクスの法則という巨大な流れによって成り立っています。それらの過程には、私自身も消費者や労働者として関与しているにもかかわらず、あまりにも巨大な流れであるために、その過程を意識することがほとんどありません。
しかし私たちは、その巨大な流れによって成り立つ生活と景色の中で生きています。日常生活で見えづらい物流や労働への再認識を促すものとして、2022年に初の物流型展覧会『手前の崖のバンプール』を開催しました。参加者は、東京湾の船着き場に集合し、船に乗って材木を所定の目的地まで運搬しなければなりません。途中、巨大なガントリークレーンという重機でコンテナ船からコンテナが港に下ろされるなどのダイナミックな物流の現場に接近しながら、参加者も輸送の役割を仮想的に果たすのです。
「The Great Nineと第三物置【検証】のモデル1」
ed.1 税込価格:165,000円
# どんな作品の考え方・アプローチをしている?
「色や質、重さなどの記号的な要素を切り離したときに本当の姿がある気がします」
郊外都市の景色、さまざまな工業製品や巨大な人工物などの質や重さを伴う実体は、本来の記号から切り離した先に本当の姿がある気がします。大学院の修了制作から、原風景である都市や郊外にみられるオブジェクトをモチーフに、さまざまな色やつるつるとしたテクスチャなどを取り入れたCGアニメーションをたくさんつくるようになっていきました。
次第に、CG空間を一度経由して実空間に持ってきたときに、取り出されたものの色やテクスチャー、そのもの自体のパーソナルスペースはどのように変化するのか。そして自分自身どういう感情を抱くのか、どういう印象を受けるのかを考えるようになっていきました。その実験の一つ目である《Paradise for Free》(2021)は、都市や郊外の景色から抽出した要素をCG空間に落とし込んでつくりあげた仮想の展示空間を、そのまま実空間に持ってきたインスタレーションです。
《Paradise for Free》(2021)
「The Great Nineと第三物置【検証】のモデル3」
ed.1 税込価格:165,000円
# 影響を受けたアート / カルチャー
「世界中の造園文化、そしてミヒャエル・エンデ作品をはじめとする児童文学です」
ミヒャエル・エンデ『はてしない物語』より
ペルシア式庭園から日本庭園まで、世界中の庭文化以外に、児童文学にも大きな影響を受けました。特にミヒャエル・エンデの『はてしない物語』は、世界への想像力を時間的にも空間的にも拡張してくれる作品ですね。
# 今後、描いていきたい風景
「仮想空間でのシミュレーションは、長年ランド・アートが抱えてきた問題にアプローチできるはずです」
ARToVILLA MARKET Vol.2出展作家 河野未彩さんの記事はこちら!
《記録の庭》
建築家の大村高広と協働して、空き家とその庭の修繕を通して、3DCGによる新たな風景の創造と実空間の回復を同時に実現する《記録の庭》というプロジェクトにも取り組んでいます。この作品は、庭に関する現地調査・文献調査の結果を、3DCG空間上に制作された庭へフィードバックするという過程に加えて、実空間の庭の制作・観察がこのモデルへと反映・蓄積されるという時間的な変化も記録しています。現実にある建築の改修と仮想空間が相互に作用する作品です。
《ミッドウェイ石》(2021)鉄製コンテナ、映像、縄、ボラード、FRP製庭石 Photo by Akira Arai (Nacasa & Partners Inc.)
このように近年は、CGを用いた仮想空間での土地改良を、実空間でのランド・アート的な制作へと発展させてきました。仮想空間でのシミュレーションを通して、長年ランド・アートが抱えてきたコストや環境、労働面の問題についてまだ何か考えられることがあるはずです。
# ARToVILLA MARKET来場者へ
「現実の風景と仮想の風景の往還による新しい体験を楽しんでもらえたら」
《The Great Nine と第三物置【検証】》(2023)
今回は《The Great Nine と第三物置【検証】》(2023)と《記録の庭》(2022〜)という作品を展示します。《The Great Nine と第三物置【検証】》では、東京・九段下にある築96年の歴史的建造物「kudan house(九段ハウス)」での展示に際して、九段と首都高中央環状線、東京外かく環状道路一帯に重なるような架空のランドスケープを制作しました。ARToVILLA MARKETでは、それに9つの「庭的なもの」を見出し、ひとつずつ検証した動画と検証模型を展示します。もう一つの出展作品《記録の庭》は、現在進行形のプロジェクトなので、実験全体を含めて、現実の風景と仮想の風景を往還するような鑑賞体験を楽しんでいただけたら嬉しいです。
Information
「ARToVILLA MARKET Vol.2」
展示テーマ:Paradoxical Landscape
展示アーティスト:浦川大志、河野未彩、GILLOCHINDOX ☆ GILLOCHINDAE、藤倉麻子、藤田クレア、藤田紗衣、Meta Flower
展示場所:FabCafe Kyoto 1F・2F (京都市下京区本塩竈町554)
展示期間:2023年10月27日(金)- 30日(月)
開催時間:11:00–19:00(最終日は17:00まで)
入場料:無料
企画監修:山峰潤也
制作:株式会社NYAW
制作進行:株式会社ロフトワーク
詳しくはこちら
ARTIST
藤倉麻子
アーティスト
1992年埼玉県生まれ。東京外国語大学外国語学部南・西アジア課程ペルシア語専攻卒業。2018年東京藝術大学大学院メディア映像専攻修了。都市・郊外を横断的に整備するインフラストラクチャーや、それらに付属する風景の奥行きに注目し、3DCGによる映像作品やAR(拡張現実)技術を駆使した制作活動で注目を集める。建築設計と建築・都市理論の研究を専門とする大村高広によるアート/建築/ランドスケープを横断する継続的なプロジェクト「記録の庭」では、建築とその庭の修繕計画を通して、3DCGによる新たな風景の創造と実空間の回復を同時に実現することを目指している。受賞歴に、LUMINE meets ART AWARD 2020グランプリ。主な個展に「Paradise for Free」(CALM & PUNK GALLERY、東京、2021)、グループ展に「エナジー・イン・ルーラル[第二期]」(国際芸術センター青森[ACAC]、青森、2023)、「アーバン山水」(kudan house、東京、2023)、「Encounters in Parallel」(ANB Tokyo、東京、2021)、「CULTURE GATE to JAPAN」(東京国際クルーズターミナル、東京、2021)、「Close to Nature, Next to Humanity」(台湾・台東美術館、台湾、2020)など。 tkhrohmr Instagram: https://www.instagram.com/tkhrohmr/
volume 07
交差する風景
わたしたちは、今どんな風景を見ているでしょうか?
部屋のなか、近所の道、インターネット、映画やゲーム、旅先の風景……。
風景、とひとことでと言っても
わたしたちが見ている風景は、一人ひとり異なります。
そしてその風景には、自然と都市、アナログとデジタル、
過去と未来、現実と虚構……などの
一見異なる概念が混ざり、重なり合って存在しています。
この特集では、さまざまな人たちの視点を借りて、
わたしたちが見ている「風景」には
どんな多様さが含まれているのかを紐解いていきます。
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