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- 鑑賞者の視座によって表情が変わる作品。 / 視覚ディレクター・河野未彩が表現する風景。
INTERVIEW
2023.10.12
鑑賞者の視座によって表情が変わる作品。 / 視覚ディレクター・河野未彩が表現する風景。
Edit / Yoshiko Kurata
ARToVILLAでは2023年10月27日(金)から30日(月)まで京都にて、エキシビション/アートフェア「ARToVILLA MARKET」を開催。キュレーター・山峰潤也氏による「Paradoxical Landscape」というテーマのもと、7人のアーティストの作品の展示・販売を行います。
Paradoxical Landscapeを直訳すれば、「矛盾した風景」。自然と都市、アナログとデジタル、過去と未来、現実と虚構……などの一見異なる概念が混ざり、重なり合って存在する現在的な風景のユニークさと、そんな風景への新しい感性のまなざしを探るための特集「交差する風景」にも通じます。今回は、出展作家の方々に共通の質問をし、風景と作品についてのインタビューを行いました。
出展作家のひとりである視覚ディレクターの河野未彩さん。見る者によって変わる風景や色彩をレンチキュラーや動きのある立体作品などで表現してきました。人それぞれの気持ちや状態に委ねる作品スタイルは、河野さんが思う「風景」への想いと通じます。
# あなたの原風景は?
「幼少期から宇宙に惹かれるものがありました」
「原風景」と聞くと、いくつか思い浮かぶものがあるのですが、その中でも生まれ育った横浜郊外の近くにあった、藤沢市湘南台文化センターは自分に影響を与えた原風景です。
私が住む町から田んぼ越しの川の向こうに見える、地球儀のような建築物の藤沢市湘南台文化センターにはプラネタリウムや体験型のこども科学館などがあって。向こう側にある宇宙の世界に想いを馳せていました。当時、初めて日本人女性の宇宙飛行士として向井千秋さんが宇宙に飛び立ったニュースが話題になっていたこともあって、小学生の頃の夢には宇宙飛行士と書いたり、休み時間に図書室で惑星の本をみたり、宇宙にはなぜか懐かしさを感じる感覚があり好きでした。
その後も、20代に沖縄の海で七夕の日に体験した星空と海面に夜光虫が光り輝いている風景は忘れられないです。羊水のなかにいるような心地いい温度の海に浮遊しながら、天の川まではっきり見える満点の星空と、私の動きに反応して光る夜光虫の光に包まれている風景は、まるで360度宇宙に包まれているような体験でした。
宇宙は原風景の一つでもあり、視覚的にも体験的にも影響を受けた風景でもあると思います。
# 風景とはどのようなもの?
「主観的な記憶に残っている [宇宙] 対 [わたし] の瞬間」
自然豊かな場所で、その土地特有の風土や季節、個人が感じた感情など色々エモーショナルな記憶を含めて時を経ても思い出せる一枚絵を「風景」と呼べると思います。でも不思議なのが、例え複数人で体験したとしても、主観的な視座の記憶になっているためか、あくまで宇宙対個人の瞬間であるように感じます。極端にいうと、走馬灯の中で巡るような人生の特別なものでもあるのかなと。
「風景」とはどのようなものなのか想像した時に自然風景とは逆に、いま拠点で活動している東京で見る日常の風景は、もはや「風景」だとは認識していなかったことに気づきました。でも「風景」や「景色」「情景」「光景」など色々なニュアンスの違う表現があるのは面白いですよね。そういえば、大きな会場のライブでアーティストが「今日、この風景(景色)を見せてくれてありがとう」というふうに言っているのをよく聞きますが、その瞬間、人間対人間のコミュニケーションではなくなる感覚になるのは私だけでしょうか?それはやはり「景色」や「風景」という言葉が主観的に捉えられた絵として感じるからかもしれません。
「まわる色_01」
税込価格:385,000円
# どんな作品の考え方・アプローチをしている?
「それぞれ鑑賞者の視座によって見え方が変わる作品を発表しています」
左)「まわる色_01」(2021, lenticular, motor, acrylic) 右)「INFORMATION MIXER_001」(2022, Stainless steel, acrylic, motor)
これまで個人的な体験に基づいた思考を描いたり、現象として表現したりしてきました。それぞれ鑑賞者の視座によって、見るものに対して感じ方が異なる現象をテーマに作品として形にしていて。
今回ARToVILLA MARKETで発表する作品は、2021年に西麻布のギャラリー「CALM & PUNK GALLERY」の「←左右→」で展示したレンチキュラーを使った立体作品に加えて、2022年に「HARUKAITO」の「<<脳内再生>>」にて展示したモーターによってアクリルが回転すること で、光や風景をミニマルに反射する作品を展示する予定です。
まさにレンチキュラーを用いた作品「デジャヴ」は鑑賞者それぞれの視座によって色が変化し、「まわる色_01」は、作品自体が回転し色や見え方が変化するので、作品のコンセプトを感じ取っていただきやすいかもしれないです。
もうひとつの作品「INFORMATION MIXER_001」は、それ自体には光源や色がなく、環境のそういった情報を受けて拡散する装置になっています。光を含めて空間のさまざまな要素を編み込んで、周りに反射させる本作は、わたしたちの脳内で色々な情報が混ざり、新たなイメージへと展開していく様子を描いています。
それぞれ作品自体が変化してみえるものなので、さまざまな角度や光から四次元的に鑑賞できる作品になります。
「デジャヴ」
税込価格:385,000円
# 影響を受けたアート / カルチャー
「音楽とインドから影響を受けてきました」
影響を受けた音楽のレコードやCD
音楽には大きな影響を受けてきました。人生で初めて影響を受けた音楽は、ビートルズ。中学生の時でした。世代的には、ビートルズ全盛期から3〜5世代くらいズレているのですが、特に中期の作品から音楽的にもジャケットデザインにおいても刺激を受けました。先ほど話した、「風景」を感じる時のように、不思議とノスタルジーを感じる音楽を好んでいました。そこからインド音楽にも惹かれ、その流れでチャントや祝詞 1) にも興味を持ちました。あとは、高校生の時にダンスをやっていたこともあり、テクノや洋楽に慣れ親しんでいたことから、クラブミュージックにも影響を受けてきました。
ちょうど大学生の頃から、クラブシーンではハウスミュージックやテクノ、ヒップホップ、ハードコア全てのジャンルが混ざり合うような現象が起きて。いまでは当たり前かもしれないですが、当時は複数のジャンルが同じパーティで交流するのが盛んになり始めた時期でした。そこでさまざまな要素が混じり合う混沌とした空気の中で新しい何かが生まれることを体験した気がします。
音楽を含めて、20代に初海外で訪れたインドも大切な場所です。当時は今ほど、インターネットで情報収集できる時代ではなかったので、本や行ったことのある友人から話を聞く程度の情報から、自分の中で想像を膨らませて五感や勇気を使った旅は刺激的でした。インドに限らず、そうしたまだ見ぬ景色、”ここではないどこか”への幻想などは惹かれるものがありますね。
1) チャントとは、一定のリズムと節を持って、祈りを捧げる様式のこと。祝詞は、神を祭り神に祈る時、神に対して唱える古体の文章のこと。
# 今後、描いていきたい風景
「誰かの心の拠り所や脳内の旅先になれる風景を描きたいです」
今まで話したような自分の体験は、もしかしたら記憶の中で美化されていて空想上のものになっているものもあるかと思います。そういった、必ずしも現実ではないような風景が創作できたらいいなと思います。その風景に没入できたり、そこを起点に空想を広げられたり、行ったことがないのに懐かしさを感じるような、独特な孤独感がありつつも、誰かの心の拠り所や脳内の旅先になったらいいなと思います。
ARToVILLA MARKET Vol.2出展作家 浦川大志さんの記事はこちら!
# ARToVILLA MARKET来場者へ
「京都では初めての発表となる作品。色々な角度から眺めていただけたら幸いです。」
これまで東京、熱海とさまざまな場所で展示してきた作品ですが、展示される場所や見る方それぞれによって色々な表情をする3作品になります。
「INFORMATION MIXER_001」は、滞在制作していた熱海で毎日のように見ていた、海の水面の輝きからインスピレーションを得ました。原風景への想いと同じく、自然風景やそこでの記憶から心を動かされて作品制作に繋がることが多いように思います。
自然豊かで日本らしい京都の風景の中でいろんな角度から作品を見ていただけたら嬉しいです。実際に見ることで体験できる作品なので、ぜひこの機会に直接、ご覧ください。
Information
「ARToVILLA MARKET Vol.2」
展示テーマ:Paradoxical Landscape
展示アーティスト:浦川大志、河野未彩、GILLOCHINDOX ☆ GILLOCHINDAE、藤倉麻子、藤田クレア、藤田紗衣、Meta Flower
展示場所:FabCafe Kyoto 1F・2F (京都市下京区本塩竈町554)
展示期間:2023年10月27日(金)- 30日(月)
開催時間:11:00–19:00(最終日は17:00まで)
入場料:無料
企画監修:山峰潤也
制作:株式会社NYAW
制作進行:株式会社ロフトワーク
詳しくはこちら
ARTIST
河野未彩
視覚ディレクター / グラフィックアーティスト
視覚ディレクター/グラフィックアーティスト。2006年に多摩美術大学プロダクトデザイン専攻卒業。音楽や美術に漂う宇宙観に強く惹かれ、2000年代半ばから創作活動を始める。アートディレクション/グラフィックデザイン/映像/プロダクト/空間演出など、女性像や現象に着目した色彩快楽的な作品を数多く手がける。ラフォーレミュージアムや浅間国際フォトフェスティバルをはじめ国内外での展覧会多数。2019年に作品集「GASBOOK 34 MIDORI KAWANO」をGAS AS INTERFACEより刊行。影が彩る照明「RGB_Light」を開発、日米特許取得から製品化まで実現。主な個展に「脳内再生」(HARUKAITO by ISLAND、2022)、「←左右→」(Calm & Punk Gallery、2021)、「not colored yet」(Calm & Punk Gallery、2018)など。
volume 07
交差する風景
わたしたちは、今どんな風景を見ているでしょうか?
部屋のなか、近所の道、インターネット、映画やゲーム、旅先の風景……。
風景、とひとことでと言っても
わたしたちが見ている風景は、一人ひとり異なります。
そしてその風景には、自然と都市、アナログとデジタル、
過去と未来、現実と虚構……などの
一見異なる概念が混ざり、重なり合って存在しています。
この特集では、さまざまな人たちの視点を借りて、
わたしたちが見ている「風景」には
どんな多様さが含まれているのかを紐解いていきます。
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