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INTERVIEW
2023.10.06
「日常の中にある違和感を、ただ作品化している感覚なんです」 / アーティスト・玉山拓郎が語る風景とアート
Photo / Ryo Yoshiya
Edit / Eisuke Onda
特集「交差する風景」では“部屋のなか、近所の道、インターネット、映画やゲーム、旅先の風景……。”と、一言では言い表せないほど多様に広がる「風景」について、さまざまな人の視点を借りて紐解いていきます。
今回登場するのは既存の空間を、ある種全く異なる“風景”へと昇華する試みを続けるアーティストの玉山拓郎さん。リアル、バーチャル、映像などが交差する身の回りの風景を、どのように眼差しながら、作品制作を行っているのか。そして、影響を与えた風景と表現活動との関係性とは?
また、話の後半では、大丸松坂屋百貨店がスタートしたアーティスト育成プロジェクト「Ladder Project」に参加して10月末の「Art Collaboration Kyoto」で発表する新作についても語ってもらいました。
玉山拓郎
家具や日用品などのありふれたオブジェクトや、さまざまなサイズ、形の立体物、そして強烈な色彩をまとう光や、映像、音。それらを複雑にかけ合わせたインスタレーションを発表するアーティスト。彼が自らの眼差しを表出させる空間は、絶妙なスケール感やそれぞれの配置の妙によって、強い印象をもって観賞者に感覚のズレや違和感をもたらします。
《Museum Static Lights : The National Art Center ,Tokyo》(2022,国立新美術館 ,東京)/Photo : 大町晃平 Kohei Omachi/Photo courtesy : 国立新美術館, ANOMALY
《Something Black》(2022-2023,森美術館 ,東京)/Photo : 大町晃平 Kohei Omachi/Photo courtesy : ANOMALY
違和感のある風景からの「作用」
――玉山さんはかねてから空間的なアプローチを続けてこられ、発表する作品はどれも「風景」と密接な関係があるように見えます。そもそも日頃、身の回りのどんな風景に惹かれますか。
玉山:僕の風景の見方は、他の人とは少し異なるかもしれません。例えば、風景画と聞くと、湖畔に木々が生い茂っていて、遠くに白んだ山が見えるようなイメージを典型として思い浮かべる人も多いと思いように、一般的には風景というと、絵的な美しさや心象と結びついて捉えられることが多いと思います。一方で僕自身はそこにあまり興味はなく、惹かれるのはどちらかというと無機質な光景。ちょっとした違和感が垣間見える場所につい目がいってしまいます。例えば、ビルが建ち並ぶ都会の中に突如ひらけた土地がポッカリ出現する様だったり、地下から地上へやけに巨大な通気口の管が貫いてる状況だったり。それも、視覚的にではなく、その場や状況が自分に対して起こす「作用」のようなものに反応している。咄嗟に風景をスマホで撮りたいと感じる瞬間も、絵ではなく体験を保管したいという思いから。改めて考えると、そういうことに興味があったから、今空間的な作品を展開するに至っているのかもしれません。
――具体的に印象深かった風景はありますか?
玉山:まず思い浮かぶのは、美術館の展示室です。多くの場合、作品の数々は他の施設とは比べものにならないほど開放的な空間に飾られます。そこでは、アーティスト自身やその作品たちが起こす作用に起因して、その場だから生まれる体験がある。だからこそ、対峙している感覚に誘われるんですよね。その原体験となったのは、建築家の谷口吉生さんが設計した〈豊田市美術館〉の光景です。地元が近く、子供の頃に父に連れられて初めて足を運び、そのスケール感に圧倒されたことを覚えています。
豊田市美術館の内観と外観(豊田市美術館:画像提供)
また4年ほど前に訪れたNYの〈Dia:Beacon(ディアビーコン)〉という現代美術館の展示室の風景は、真骨頂。ロサンゼルスで展示をしていた際に、1週間だけNYに滞在し足を運びました。とてつもなく広大なスケールの展示室の中に、サイズの大小を問わず、場に負けることのない力のある作品たちが陳列されている様は強烈でしたね。いまだにそこで受けた空間自体のスケールの大きさと、それぞれの作品が作用することで生まれる空気感に対峙した体験がずっと尾を引いていて。時間が経った今でも、作品に取り掛かる際に心のどこかで参照している面があると思います。
――面白いですね。ちなみに、街中の風景で興味を惹かれた場所はありましたか?
玉山:すごくピンポイントですが、東北自動車道上りの蓮田サービスエリアの喫煙所付近は印象的でした。無機質に空間を覆う黒い塀の先に、妙に巨大な鉄塔が立っている場所で。看板などはなく圧倒的な情報量の少なさが特徴。また建物と喫煙スペースを仕切る窓も異常な大きさ。本来であれば見慣れたコンポジションのはずなのに、妙なサイズ感にグッと引き込まれてしまって、思わずスマホで撮影しました。以来、たまに車で遠出をした時は、遠回りしてここに立ち寄って、一服してから帰ることもよくありますね(笑)。
玉山さんが撮影した蓮田サービスエリアの喫煙所付近
“かりそめなのにリアル”という究極の違和感
――一方で玉山さんは日頃、ホラー映画をご覧になるのがお好きだそうですね。ディスプレイの中で展開していく映像も風景の一つだと考えるならば、どういう作品や場面に興味を惹かれますか?
玉山:身の回りの風景に関しては、絵的な美しさには惹かれないと言及してきましたが、映画の場合は逆に、絵が端正な場面や、構図や構造に対する厳格さによって存在感を示している監督や作り手の作品に惹かれるといえるかもしれません。というのも、映画はいわばクリエイティブに設計された景色の連続。リアリティを追求してはいるけれども、実際には現実とかけ離れた状況が繰り広げられているところに、すでに興味深い違和感を抱くんですよね。
中でも、『サイコ』(1960/*1)や『エクソシスト』(1973/*2)、『シャイニング』(1980/*3)などの名作はその代表格だなと。CG技術が発達していない1960~80年代に、物質的にこの世に存在するものだけを使って、徹底的かつ厳格にリアルを追求して作られたもの。だからこそ観る者に、生々しい恐怖を与えますし、“かりそめなのにリアル”という究極の違和感が如実に表れているんですよね。そこに強く惹き込まれてしまいます。
*1......アルフレッド・ヒッチコック監督のスリラー・サスペンス。シャワーヘッド、排水溝、死んだ人の動向など丸オブジェクトが続いて映される、シャワー室での殺人シーンが有名。
*2......悪魔に取り憑かれた少女を除霊するエクソシストを映したイタリアのホラー。ウィリアム・フリードキン監督作品。ありえない体勢で階段を降りるシーンが衝撃。
*3......スタンリー・キューブリックのホラー作品。人里離れた歴史あるホテルの管理の仕事を、冬の間、家族と一緒にすることになった小説家を演じるジャックニコルソン。だが、その場所にいる悪霊に取り憑かれて、精神は崩壊していく。突如現れる双子の幽霊や、血の洪水などショッキングなシーンが多い。
――ここまで挙げていただいたような、実際に玉山さんが出会った違和感を感じる「風景」は、今、どのような形でご自身の作品作りに影響を与えていますか。
玉山:僕としては至ってシンプルで、自分が日頃身の回りのものや状況から受け取るちょっとした違和感に面白さを感じて、ただそのまま作品化している感覚。だから、何か大きなものを指し示そうという意図はないんです。ただ鑑賞する人たちが、僕の作品に対して何らかの気づきを得て、それがその人の生活なり、仮にその人が作り手なら作品なりに、何らかの良い作用が起こればいいなと。自分が美術をやっている以上は、現代美術をアップデートしていきたいし、みんなでその可能性を広げ合って共有したい。そういう思いで表現を続けています。
「Ladder Project」第1弾支援アーティストのスクリプカリウ落合安奈さんの記事はこちら!
静的な光ではなく、動的な光を
ーー玉山さんは現在、大丸松坂屋百貨店がスタートするアーティスト育成プロジェクト「Ladder Project」に参加され、10月28日より、京都で開催されるArt Collaboration Kyoto(以下ACK)にて新作の展示を控えていらっしゃいます。具体的には、どのような空間でどんな作品を展示されるんでしょうか。
玉山:京都・四条木屋町の〈Bijuu〉というホテルの2階、元はレストランだった場所で展示を行う予定です。コンクリート打ちっぱなしの壁に剥がされっぱなしの天井、古びた木の床……とホワイトキューブとは似ても似つかない環境なんですが、個人的にはそうした空間に散りばめられた“ノイズ”こそが面白いなと感じています。そして展示するのはインスタレーション作品。2つでワンセットの直径2mのリング型の立体物が6セット、計12個宙に浮いているようなイメージが象徴的に配置される予定です。
――今回の新作の制作過程では、ご自身にとって特にチャレンジングな試みはありますか?
玉山:光に関しては初めての試みがありますね。そもそも僕の代表的な作品に、蛍光灯を使った《Static Lights》というシリーズがあります。敬愛するルイス・カーン(*4)という建築家が、蛍光灯を“静的な光”と称して嫌っていたことに着想を得たシリーズで、彼の考え方は電気によって育まれる光は全く動きのないものであるというものなのですが、僕は逆に、ならば変化のない静かな光である蛍光灯が、空間に対して何を起こしてくれるのか、どんな作用を起こすのかを知りたいなと考え、始めたものです。一方で今回使っているのは、静的な光ではなく動きがある自然の光。それは初めてのアプローチなんです。光がただそこにあるだけで何かが起こるか、ではなく、作品が自発的に動き出すとどうなるのか。新作を通じて考えてみたいです。
*4……アメリカ人建築家の巨匠。代表作にソーク研究所やキンベル美術館などがある。
《Static Lights : Tilt and Rotation》(2022,科学技術館 ,東京)/Photo : 大町晃平 Kohei Omachi /Photo courtesy : ANOMALY
――作品が今から楽しみです。なお展示するにあたって、キュレーターや企画サイドから何らかのオーダーはありましたか。
玉山:題材やテーマに関しては特にありませんでしたが、サイトスペシフィックすぎない作品をというオーダーがありました。とはいえそもそも僕自身の場合、作品は出来うる限り自由であるべきで、特定の場に根を張らせたくないと考えているので、今回も今後、別の空間で展開されるものになることは、当たり前のこととして視野に入れています。もちろんサイズ感は展示される場所によってコントロールすることにはなりますが、そこは作品の本質には影響を与えない点ですし、むしろ場に応じてどんどん変容していくべきだし、作品自体が広がりを持って欲しいとも思っています。
《Museum Static Lights : The National Art Center ,Tokyo》(2022,国立新美術館 ,東京)/Photo : 大町晃平 Kohei Omachi/Photo courtesy : 国立新美術館, ANOMALY
――玉山さんは、自らの作品に対して、鑑賞者に解釈を委ねたり、変容することを肯定する大らかな姿勢があるような印象を受けます。
玉山:それは、大らかというよりは、作品に関して見方や定義を規定したくないという思いからなんです。というのも、僕が生み出したものであっても、作品に対して創造主である神のように振る舞うのではなく、自分の想定や思考を優に超えて変化していってほしいですし、自由に広がっていってほしいなと。
そしてその時に大事なのは、実際に目にした方がどのように感じ、どう考えるのかです。具体的にどんな作品であるかは、これまでの展示も然り、今回のACKでの展示も然り、実際に展示の中で少しずつ明らかになっていくもの。鑑賞してくれる人たちと、あれこれ議論する中で、何かが生まれていけばいいなと思っています。
Information
Art Collaboration Kyoto(ACK) Special Program
「Ladder Project(ラダー・プロジェクト)powered by Daimaru Matsuzakaya」
■展示アーティスト:
スクリプカリウ落合安奈
会場:国立京都国際会館(京都市左京区宝ヶ池)
展示日時:10月28日(土)12:00–19:00、10月29日(日)11:00–19:00、10月30日(月)11:00–17:00
入場料:ACK(https://a-c-k.jp/)に準ずる
玉山拓郎
会場:Bijuu(京都市下京区船頭町 194 村上重ビル2F)
展示日時:2023年10月27日(金)11:00–19:00、10月28日(土)11:00–22:00、10月29日(日)11:00–19:00、10月30日(月)11:00–17:00
入場料:無料
■企画監修:山峰潤也
■制作:株式会社NYAW
■制作進行:株式会社ロフトワーク
ACKで発表する作品の関連作品は、下記の会場にて購入も可能です。
場所:FabCafe Kyoto 3F (京都市下京区本塩竈町554)
展示期間:2023年10月27日(金)- 30日(月)
開催時間:11:00–19:00(最終日は17:00まで)
入場料:無料
※こちらの会場1F・2FではARToVILLA MARKET Vol.2を開催しております。
詳しくはこちら
ARTIST
玉山拓郎
アーティスト
1990年岐阜県生まれ。愛知県立芸術大学卒業後、東京藝術大学大学院修了。身近にあるイメージを参照し生み出された家具や日用品のようなオブジェクト、室内空間をモチーフに、鮮やかな照明や映像、音響を組み合わせたインスタレーションを制作。主な展覧会に、「Something Black」(ANOMALY、東京、2023)、「六本木クロッシング2022展:往来オーライ!」(森美術館、東京、2022-2023)、「NACT View 01:玉山拓郎」(国立新美術館、東京、2022)などがある。
volume 07
交差する風景
わたしたちは、今どんな風景を見ているでしょうか?
部屋のなか、近所の道、インターネット、映画やゲーム、旅先の風景……。
風景、とひとことでと言っても
わたしたちが見ている風景は、一人ひとり異なります。
そしてその風景には、自然と都市、アナログとデジタル、
過去と未来、現実と虚構……などの
一見異なる概念が混ざり、重なり合って存在しています。
この特集では、さまざまな人たちの視点を借りて、
わたしたちが見ている「風景」には
どんな多様さが含まれているのかを紐解いていきます。
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