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INTERVIEW
2022.12.02
とっておきのアートを探しに。前田エマと小谷実由が巡る、ARToVILLA MARKET
Text&Edito / Eisuke Onda
「アートの素敵な衝動買い」をコンセプトに2022年11月11日〜13日の3日間に渡り開催された『ARToVILLA MARKET』。本イベントはアートをその場で購入する事ができる開かれたマーケットであり、展示の最大の特徴はキュレーターやプロデューサーがいないこと。作品を選ぶのは、ARToVILLAに関わるDOORSと呼ばれるカルチャー界で活躍する人たち。様々な職業の人たちが選んだ作品が総勢100点以上も会場を埋め尽くしていた。
今回、このイベントに訪れたのはDOORSの一人であるモデルでアーティストの前田エマさん(写真下)と、彼女と親交が深い同じくモデルの小谷実由さん(写真上)。二人はおしゃべりをしながら、気軽な気持ちでアートを覗き込む──、これが家にあったら素敵な暮らしになるかもしれない。そんな妄想を膨らませながら会場を巡っていきます。
誰かの好きが詰まったアートを楽しもう
本記事は11月10日11時半から配信したARToVILLA MARKET Instagram LIVEをもとに、追加取材をし加筆したもの。インスタライブの様子はアーカイブから視聴することも可能。
前田:この展示のコンセプトは「アートの素敵な衝動買い」ということですが、おみゆ(小谷実由)ちゃんはお洋服とか衝動買いしますか?
小谷:しちゃいます(苦笑)。だから、少し緊張しています。
前田:アートって洋服みたいに気軽に買えないものだと思う人もいるかもしれませんが、今回はちょっと頑張れば買えそうな手頃なものから、巨匠の作品まで目白押しなんです。私もその一人ですがDOORSと呼ばれる方々が推薦した作品を展示しているので、ある意味で雑多というか。
小谷:いろいろな人の好きが詰まっているんですね。
前田:そうなんです! 私の推薦作家の作品をおみゆちゃんがどう受け止めてくれるかも楽しみにしつつ、会場に入っていきましょう!
会場入口付近に飾られてた安藤晶子《それがここ It’s here》の前で立ち止まる二人
前田:安藤(晶子)さんは私たちの友人であるミュージシャンのカネコアヤノちゃんのCDジャケットとかグッズも描いているアーティストです。
小谷:これは私たちも親交のあるme and youの野村由芽さんの推薦みたいですね。
前田:他にも今回参加しているDOORSは、me and youの竹中万季さんやデザインユニット・KIGIの植原亮輔さん、Soup Stock Tokyoの遠山正道さんなど。
小谷:いろいろな人の推しが集結している感じが楽しいね。あっ、狩野(岳朗)さんの作品だ。
狩野岳朗《灰青色な単位 #03》
小谷:私、狩野さんの作品が大好きなんです。展覧会に行く度に「いつか買いたいなぁ」と思っていました。でも、売り切れちゃうんですよ。
前田:人気だよね。観ていて飽きないもんね。ツルツルだったり、ザラザラだったり。ペインティングなんだけど、陶器や器みたいな質感。
小谷:そうそう、立体感もあるよね。色の混ざっている感じだったりが好きで、展示で狩野さんに会うと、「この部分はどういう気持で描いているんですか?」っていつも聞いちゃう(笑)。
前田:現代の作家さんはギャラリーに行くと、そうやって話を聞けたり出来るから嬉しいよね。あっ、隣は三瓶(玲奈)さんの絵だ。私は彼女とアトリエをシェアをしたことがあります。
壁の中央のカラフルな作品が三瓶玲奈《光の距離》
前田:(《光の距離》を観ながら)何が描かれているんだろう? 見えそうで、見えなくて、見えそう.......。
小谷:ずっと眺めていると、なにか違うものが見えてきそう(笑)。
前田:ハケでシュシュっと描いているようで、色が重なっている部分とかを計算して描いている。だから、いくら見ても見た気がしないんだよね。
──こちらの作品はme and youの竹中さんの推薦です。
前田:竹中さんか〜。誰が推薦したのか気になってくるね。
小谷:気になる。ちなみに狩野さんは?
──ARToVILLAに関わるライターでテレビっ子の綿貫大介さんです。
小谷:好きな作家さんがかぶるとその人が他にどんな作品を推薦しているのか気になってきますね。
作品に近づいてみたり、観る角度を変えてみたり、試行錯誤するおみゆさん
小谷:普段は作品をWEB上で観ることも多くて、そうすると正面からしか観れないんです。こうやって真横から見ると発見がありますね。キャンバスの横までみっちり描いている作品もあるんだ。
前田:たしかに。私は学生の時に油絵を専攻していたんですけど、キャンバスの側面まで作品として考える / 考えないは人によって違うんですよね。そういうことを思い出しちゃった。
小谷:そうなんだ。私はいつも側面に注目しちゃう。
前田エマが推薦するアーティスト
小谷:エマちゃんコーナーに近づいて来ました。
前田:こちらは私が推薦した作家の一人、大杉祥子さんの作品ですね。
大杉祥子《old game》
前田:これは和紙にしりとりが描いてある。しりとり、リトグラフ、ふしぎ、ギンガ、がんこ、コウゴウセイ。
小谷:文字が反転していたり、していなかったりするのもいいですね。
前田:彼女は主に版画を制作しているけど、懐かしい雰囲気がありつつ、凄くユーモアもあって好きです。それと、大杉さんの版画の下にあるのは私が推薦した尾形愛さんのタイル作品です。
尾形愛《Riding the wave》
前田:彼女は陶芸や版画、ペインティングなど様々なメディアを使う作家です。人間とか動物をモチーフにすることが多くて、私はすごく好きな作家さんなんです。
小谷:エマちゃんが書いた尾形愛さんの紹介コメント(*1)。これをインスタライブの前に読んで、作品を観たら“なるほどな”と感じた。たしかに線が素敵。
*1……“線を描く”ということに対する、彼女の感性がたまらなく好きです。揺らいでいるような心地よさがあるのに、ピシッと選び取った確固たる強さがある。日常の些細な感動を丁寧に残し続ける作品たちは、絵日記のようでもあり、彼女の変化していく心の中をそっと観察しているような気持ちになります。版画からはじまり、陶芸、ペインティングへとその表現は広がっており、この先もどんな作品と出会えるのか、ワクワクします。
前田:嬉しい〜。こちらも先程紹介した大杉さんの作品です。実は私の小説集『動物になる日』の表紙に絵を描いてくれた作家で、ここにある人形はその短編の物語を一つ一つ擬人化して人形にしてくれたものなんです。
小谷:可愛い!
人形それぞれには《マルガリータ》《デート》《定食おばあさん》などタイトルが付いている
小谷:凄く懐かしい感じがする。
前田:プラバンで作ったみたいです。みんな小さい頃に一度はやったよね(笑)。
小谷:どうりで懐かしいわけだ! 「プラバン」って久しぶりに言いました......これ、付いているのはビーズ?
前田:そうそう、ビーズで体を止めてあります。
関節部分にはビーズが使われている
前田:着せかえ人形を思い出すよね。
小谷:可愛い〜。凄く選んでいるものがエマちゃんらしいなって思う。色使いだったり、線の感じだったり。選んでいる人の人柄が現れるのだなと改めて感じています。
DJの青野賢一さんがセレクトするアートなレコードを見て「レコードもアートって言って良いんだ!」と驚くおみゆさんと「私もYMOのレコードを部屋に飾っている!」と語るエマさん
彫刻家の瀬戸優が作るペンギンに興味津々のおみゆさん。「動いたらどうしよう(笑)」
前田:全部の作品を観て回りました。会場はそこまで広くはないけど、作品の数とバラエティが豊富で、大きい展示を鑑賞したあとみたいな、心地いい疲労感が残ってます(笑)。
小谷:すごい作品数だったね。絵もあれば、版画や彫刻、写真もあって。本当にいろいろな作品が見れて、何も知らなくても楽しめました。
前田:雑貨屋さんに入る感覚でアートを見れたような不思議な気分でした。
小谷:たしかに、凄く気軽な気持ちで観れました。
目と心を奪われたアートの話
──今回はインスタライブお疲れさまでした! ここからは配信で聞けなかったお話とかできればと思っています。
小谷:作品を観るのに集中しすぎて、インスタライブ中は言葉を発するのを忘れてました......ここで話せればと(苦笑)。
──改めて気になった作品ってありました?
前田:私は大杉さんの作品の近くに飾ってあったこの作品が気になりました。
川村摩那《鹽こをろこをろに搔き鳴らして》
前田:使っている色とかモチーフは限られているのに、描き方やマチエール(絵肌の調子)ですごく奥行きがあるように見えますね。
小谷:たしかに、凄くシンプルなんだけど奥行きを感じてしまう。
──こちらは遠山さんが推薦した川村摩那さんの作品で《鹽こをろこをろに搔き鳴らして》。彼女はキャリアがユニークで、早稲田大学の文学部で学んだ後に、京都芸大に行き絵をはじめたみたいなんです。
前田:タイトルも面白いですよね。私は自分で描いた絵のタイトルをついつい「Landscape」(風景)にしちゃうから、こういうユニークなタイトルは気になりますね。
小谷:私はインスタライブの配信前にガイドブックを見ていたので、DOORSの推薦コメントや作品タイトルに一通り目を通していて。そこで、しまうちみかさんの《錦糸町のネオンサインが頰をピンクとブルーに染める》の「錦糸町」という言葉がどうしても気になったんです。私、学生時代に錦糸町が通り道だったので、あの街のネオンサインが眩しい空気感をふと思い出しちゃって、どんな作品か観てみたら.......。
しまうちみか《錦糸町のネオンサインが頰をピンクとブルーに染める》
小谷:“こんなお洒落な錦糸町は知らない!”と思いました。でも、別の人を介すると全く違う景色に映るんだろうなと。同じ街のはずなのに見え方が違うのかと改めて気付かされました。推薦コメントを見ながら、作品を想像しながら回るのが凄く楽しかったですね。
前田:批評とかもそうかもしれないけど、誰かの作品に対する言葉って、やっぱり鑑賞する上でのヒントになるよね。自分とは見え方が違ってても、それはそれで楽しめるし。
アートに宿る、自分だけのプライド
──前田さんがご自宅で飾っているアートのお話は、以前、ARToVILLAのInstagram企画で取材したのでそちらを参照してもらいつつ、おみゆさんはご自宅にどんなアート作品を飾っていますか?
小谷:夫(写真家の島田大介)が撮った写真を飾っていたりもしますし、他にも好きな写真家やアーティストの作品も飾っていますね。
──飾るときのポイントとか大事にしていることはありますか?
小谷:定期的に飾る作品を入れ替えたり、飾る場所を変えるようにしています。たまに場所を変えると見えない方も新鮮になって、部屋の景色も変わる気がするんです。飾るものによって部屋がギュッと見えたり、逆に奥行きが生まれたり。同じ部屋でも飾る作品で印象を変えられるので、大きく部屋のレイアウトを変更しなくても空間を楽しめると思うんです。
前田:おみゆは家の中にアートをお迎えするときってどんなこと考えたりしてる?
小谷:まず展示で観たときにどうしても気になって、会場を回った後もその作品が観たいと思う作品があるとき、欲しいなって思う。そのあとは.......お財布が許せば(笑)。
前田:そうだよね(笑)。
小谷:あと、“買おう!”って決心が付くタイミングもあるなぁ。
前田:今は元気だから作品が欲しいとか、逆に悲しい気持ちだからこそ買おう、とかあるよね。だから、アートを買うときって作家さんの表現を見ているようで、実は作品を通して映る自分の心を見ているような気もする。
──アートを買うって自分自身と向き合うことでもある、と。だからこそハードルが高い感じもあるんですかね。
小谷:ある意味でごまかしが効かない物って感じはしますよね。例えば、誰かが家に来るからってアートは買わないじゃないですか?。
前田:花とかだったらね、人が来る時に買うけどね(笑)。
小谷:そういう気軽さはない。それに誰かお客さんが来ても、「この絵は良いね」って必ずしも言ってくれるわけでもない。でも、完全に自己満足だからこそ迎え入れたときに自分の武器が増えたような感じはすると思うんです。“私はこれを買った、家に帰ったらあるんだぞ!”みたいな。
前田:まあ、自分だけにある譲れないプライドみたいなところはあるよね。
──素敵なコメントありがとうございます。このあたりでお時間ですが、最後に言い残したことはありますか?
前田:おみゆがいっぱい素敵な話を喋ってから大丈夫だと思う(笑)。でも、誰かの個人的な物語があるから、アートの話ってやめられないのかもね。
小谷:今回の推薦している人のコメントとかまさに個人的な物語にも読めるよね。そういうコメントがあるから、より作品の魅力に気付かされることもありました。エマちゃんのコメントもとっても良かったです。
前田:ありがとう〜。
DOORS
前田エマ
アーティスト/モデル/文筆家
モデル。1992年神奈川県生まれ。東京造形大学を卒業。オーストリア ウィーン芸術アカデミーの留学経験を持ち、在学中から、モデル、エッセイ、写真、ペインティング、ラジオパーソナリティなど幅広く活動。アート、映画、本にまつわるエッセイを雑誌やWEBで寄稿している。2022年、初の小説集『動物になる日』(ミシマ社)を上梓。
DOORS
小谷実由
モデル/文筆家
1991年東京生まれ。14歳からモデルとして活動を始める。自分の好きなものを発信することが誰かの日々の小さなきっかけになることを願いながら、エッセイの執筆、ブランドとのコラボレーションなども取り組む。 猫と純喫茶が好き。通称・おみゆ。 2022 年7 月に初の書籍『隙間時間(ループ舎)』を刊行。
volume 04
アートを観たら、そのつぎは
アートを観るのが好き。
気になる作家がいる。
画集を眺めていると心が落ち着く。
どうしてアートが好きですか?
どんなふうに楽しんでいますか?
観る、きく、触れる、感じる、考える。
紹介する、つくる、買う、一緒に暮らす。
アートの楽しみ方は、人の数だけ豊かに存在しています。
だからこそ、アートが好きな一人ひとりに
「アートとの出会い」や「どんなふうに楽しんでいるのか」を
あらためて聞いてみたいと思います。
誰かにとってのアートの楽しみ方が、他の誰かに手渡される。
アートを楽しむための選択肢が、もっと広く、深く、身近になる。
そんなことを願いながら、アートを観るのが好きなあなたと一緒に
その先の楽しみ方を見つけるための特集です。
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